2009年度入試で何が問われたか<国語>

学校別分析

続いて、具体的な各学校の問題分析です。


麻布中学校

麻布の問題の特徴は、毎年、物語文が1題だけ出題されることです。今年度は、瀬尾まいこ『ゴーストライター』から出題されました。記述問題が中心であり、この傾向に変化はありません。麻布では外国作品が2~3年に一度出題されることがあり、2006年度はフィリッパ・ピアスの『ロープ』から出題されました。外国作品は子どもにとって読みにくいこともありますので、読み慣れておくことが必要です。来年度あたり、外国作品が出る可能性もありますので、要チェックです。
麻布への対策としては、「物語の大きな流れ」をとらえることが大切です。麻布の問題には「国語の問題を芸術的に仕上げたい」という出題した先生の意図が感じられるほど、「設問を解きながら物語全体の“いいたいこと”を考える」という構成になっています。この構成を意識し、選択肢の文章は、ヒントと考えて解いていきましょう。
60点満点の問題ですが、35点とれれば合格点と考えてよいでしょう。40点とれれば国語が得点源になります。したがって全問正解しようとする必要はありません。麻布は選択肢問題がやさしく作られている場合が多いので、そこは絶対に落とさず、逆に先ほど述べたようにヒントとして活用し、全体の流れをとらえていくようにしましょう。

武蔵中学校

青木玉の『小石川の家』からの出題でした。武蔵も記述問題中心ですが、今年度は、敬語に関する知識問題も出題されました。武蔵は、解答スペースに特徴があります。記述問題に関しては、字数制限も区切られた解答欄もないスペースに解答しなければなりません。
また、内容の最大の特徴は「一場面における多様な心情」が問われることが多い点です。これは武蔵に個性豊かな生徒が多く、個性を伸ばす教育をしていることとも関係が深いと思われます。
今年は、合格者平均点が58.8点と昨年度よりも10点以上高くなりました。このことから来年度は、問題文を難しくすることが考えられます。例えば、男子が苦手な「恋の話」を題材にした物語などを出題すると、問題はぐっと難しくなります。逆に言えば、この分野に強くなると、自分の強みになります。
ところで、今年度の武蔵の注目すべきポイントは、敬語が出題されたことです。思いがけない内容が出題されても、本番でパニックにならないことが大切です。

開成中学校

開成は、物語文、説明的文章、随筆からまんべんなく出題されます。今年度は、物語文1題(榊邦彦『約束』)、説明的文章1題(中沢新一『ミクロコスモスI』)でした。武蔵と同様、開成も今年度は合格者平均点が上がりましたので、来年度は難化が予想されます。
開成は出題傾向といえるものがなく、毎年のように出題形式が変わります。対策としては、基本を大事にした記述力の養成といったところでしょう。また、知識問題もひととおりはおさえておくべきだと思います。

記述で大切なことは、
「<1>理由(例:たたかれて)+<2>相手(例:兄に)+<3>キーワード(例:くやしかった)+<4>文末(から)」

という構造をしっかりとつくることです。ここで「理由」とは、「キーワード」に対する理由です。すなわち、「くやしかった」のは「(兄に)たたかれたから」ということを、しっかり書く必要があるということです。この「理由」を書きもらすことで、多くの生徒が点数を失っていますので注意してください。全体として考えると難しくても、問いに対して、<1>→<2>→<3>→<4>と順番に、一つひとつをきっちり考えていくとだんだん書けるようになっていきます。

桜蔭中学校

例年、物語文1題と、もう1題が説明的文章か随筆か韻文+説明文となっています。今年度は物語文が橋本紡『橋をめぐる いつかのきみへ、いつかのぼくへ』に所収の『永代橋』、詩と説明文が谷川俊太郎・長谷川宏『魂のみなもとへ─詩と哲学のデュオ』でした。解答形式は記述中心であり、文章の「隠れている部分までメスで切り取る」イメージがあります。深く読み取る力が必要です。
また、桜蔭の特徴として「文芸論」をテーマにした文章が出題されることがあります。難しいので、注意が必要です。

女子学院中学校

随筆3題、漢字5問の出題でした。問題文が短く、設問数が多いのがこの学校の最大の特徴であり、テキパキと解いていかないと時間が足りなくなります。問題文を読む時間を除くと、ほぼ30分で35題を解かなければなりません。したがって問題も選択式が中心です。集中力を養うことが必要であり、過去問演習は必須です。記述問題も出題されますが、桜蔭の「隠れている部分までメスで切り取る」に対し、女子学院は「素手でもぎ取る」イメージです。選択問題でも記述問題でも、出題のしくみを素早く見抜くことが大事です。

女子学院の最近の傾向としては、記述問題の減少が挙げられます。また抜き出し問題の条件が、「部分」から「一文」になっている点も注目すべきでしょう。これは「部分」を抜き出す問題だと正解があいまいになる可能性がありますが、「一文」だと解答が限定されるからだと思われます。
また取り上げられるテーマとして、「メディア」に注目したいと思います。女子学院では2008年度、2009年度と2年連続で出題されています。今後、他の女子校にも広がる可能性があります。
女子学院の問題は、とにかく集中力をきらさずにテンポよく解いていくことが大事です。

雙葉中学校

雙葉は、従来個性的な問題が多かったのですが、今年は標準的な入試問題に変化しました。物語文1題、説明的文章1題に漢字5問であり、今後もこの傾向が続くと予想されます。記述、選択、知識問題がそれぞれバランス良く出題されています。
今後の対策としては、記述力の向上、慣用句などの知識の充実、また説明的文章の難化に備えることも重要です。「言語・コミュニケーション」「文化習慣」「文芸論」などのテーマに注意しましょう。

フェリス女学院中学校

物語文1題、説明的文章1題、文法問題1題、漢字10問の構成です。受験者平均点が高い学校であり(07年度:71点、08年度:69点、09年度:63点)、合格者平均点を+8~10点とすると、目標点は75~80点とかなり高く設定する必要があります。
ケアレスミスを最小限にし、選択肢問題などは確実に得点を重ねていくことが重要です。また最後の長文の記述問題で、どれだけ部分点がとれるかもポイントです。他の設問に比べて、最後の記述問題は難易度が高くなっています。事前の練習によってかなり得点が違ってきますので、決められた字数で書く練習をしておきましょう。

フェリスは女子校にしては「知識問題」が少ないほうですが、毎年文法問題(「敬語」「主従関係」)、言葉の問題(慣用句)などは必ず出題されています。得点を失わないためにも知識問題を大切にしましょう。

栄光学園中学校

説明的文章1題、物語文1題に漢字15問でした。読解問題は記述中心です。問題文は短く、内容も比較的平易です。それらの問いに対し、いかに記述で答えるかが試される試験となっています。解答欄の大きさに合わせた答案を作るために、言い換えなどが必要になります。
選択肢問題が年々減少しており、2009年度はゼロでした。ますます解答力を問う試験になっているといえます。記述中心の内容だけに、漢字の15問は絶対に落とさないようにしましょう。

渋谷教育学園幕張中学校

説明的文章1題、物語文1題でした。選択肢問題が中心です。問題文の難度が高いので、それだけで文章全体を理解するのは苦しいです。選択肢によって本文を補完して、文章を理解するようにしましょう。

合格者平均点が今年度は前年より7点ほど上がりました。来年度はその平均点を抑えるため、難化する可能性があります。また、ヒントを少なくするという意味で、選択肢問題が減少する可能性があります。

駒場東邦中学校

物語文1題の出題でした。文章は、桜蔭と同じ橋本紡の『橋をめぐる いつかのきみへ、いつかのぼくへ』に所収の『永代橋』でした。
記述問題中心の出題であり、最後のほうの設問で「物語の大きな流れをとらえているか」が問われることが多いのが、駒場東邦の特徴です。傾向が麻布とよく似ているのですが、違うところは駒場東邦には字数制限がある点です。制限字数内に収めるのが大変というお子さんがけっこういますので、よく練習しておきましょう。特に字数が70字、100字と多くなると、なかなかうまくまとめられないものです。「何」を「どのくらい」書くのかを決め、それから書き始めるようにするとよいでしょう。
物語文で記述中心の学校は、身近なテーマで深く問う、という傾向があります。「友人(友情)」「父母子」「祖父母」などのテーマに関して深く理解することが大切です。麻布と同様、「設問を解きながら物語全体の“いいたいこと”を考える」という構成を意識しましょう。

国語はよく、どうやって勉強したらいいかわからない、勉強しても成績が上がらない、などといわれますがそんなことはありません。頻出のテーマについての知識があれば、読解が楽になり、また頻出のテーマはある程度絞り込むことができます。そういう意味では、国語は短期間でも力を伸ばせる科目なのです。

【編集室より:テーマについての詳細は、小泉浩明先生著『中学受験 必ず出てくる国語のテーマ』(ダイヤモンド社)をご参照ください】

プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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