2009年度入試で何が問われたか<国語>
難関国・私立中学受験の指導に定評のある先生による、2009年度入試問題の分析をお届けします。
出題形式、分野、頻出キーワードなど、さまざまな角度から分析し、何が問われたのかを解説しています。国語、算数、理科、社会の入試のポイントをご紹介していきますので、ぜひお役立てください。
首都圏主要校の入試分析<国語>
首都圏主要校の2009年度入試問題の分析結果をもとにした、平山入試研究所・小泉浩明先生による国語入試の出題傾向と今後の対策についてのお話です。
(以下は、2009年3月に開催された森上教育研究所主催「わが子が伸びる親の『技』研究会」セミナーでの講演を抄録したものです。)
2009年度 国語入試のポイント
大きく、4つのポイントが挙げられます。
(1)記述問題数に減少傾向が見られる
(2)説明的文章が若干増加している
(3)新しいテーマが登場している
(4)出典作家・作品のリバイバル化が見られる
以下、この4つのポイントについて解説していきます。
(1)記述問題数に減少傾向
ここ数年、難関校で記述問題が増加していました。その反動もあると考えられますが、今年度の記述問題数は全体として減少傾向にありました。
分析を行った首都圏74校のうち、昨年度と比べて記述問題数が減少した学校は30校、増加した学校は21校、変化なしが23校でした。全体として見ると、減少した学校は増加した学校よりも9校多いことになります。
偏差値別に増減を見てみると偏差値55以上の学校、特に女子校で、記述問題が減少しています。
記述問題減少の目的のひとつに、合格者平均点の上昇をめざしたことが考えられます。渋谷教育学園渋谷、早稲田などは、昨年度の合格者平均点が50%をきっていました。低すぎる合格者平均点をあげたいという出題者の意図が見られます。しかしながらその結果、今年度の合格者平均点があがりすぎた感のある学習院女子中等科、早稲田などの学校については、来年度その反動に注意が必要です。
また、「問題文の難度上昇」を目的として、記述問題数を減らした学校もあると考えられます。ここ数年続いた記述問題の増加により、問題文自体は易化傾向にありました。この関係が逆転し、桜蔭、光塩女子学院中等科などの学校は問題文が難化し、読解力を試す問題が増えました。浅野のように問題文の量が増加(1.6倍)した学校も見受けられます。
武蔵は今年、「敬語」を問う知識問題が出題されました。記述問題の出題が多い学校でも、知識問題も問われる可能性があることを心に留めておくべきでしょう。
以上のことから、2009年度の記述問題の減少傾向は、決して問題の易化であるとは単純に考えられない点に注意が必要です。
(2)説明的文章が若干増加
今年度、随筆や韻文が減少して、説明的文章(説明文、論説文)が増加しました。全体として大きな変化はみられませんが、雙葉のように毎年出題していた詩をなくし、傾向をガラリと変えてきた学校もありますので、注意が必要です。
(3)新しいテーマの登場
出題文をテーマ別に分類してみると、ベスト3は、「友人(友情)」「言語・コミュニケーション」「父母子」でした。これは2008年度と変わりません。ベスト10までのテーマで、全体の約70%の問題が網羅できますので、これらのテーマについての知識をもっていることは、かなりの強みとなります。
「友人(友情)」は、全体の16.3%で、昨年に引き続き第1位です。子どもにとって、友人にまつわる話がいちばん身近でわかりやすいと思いますが、最近の「友人(友情)」物語は単純な展開のものが少なくなってきています。問題文を読み終えて、「だから何なの?」ということにならないように、「物語文の流れをつかむ」ような読み方をさせることが必要です。
「言語・コミュニケーション」分野は、今後も注目されると思われますので、要チェックのテーマです。キーワードとしては、一般的な基礎知識の他に、「ソシュールの理論」※や「ファティック」※などはおさえておきたいところです。
※ソシュール:スイスの言語学者。イヌとかネコとかの名前がつけられて、初めて、イヌとかネコとかの実体があるかのように見えると提唱した。
※ファティック:送り出す人と受け取る人のつながりをつくり、強める言葉の働き。
「他者・大人」をテーマにした出題が急激に伸びています。このテーマは、父母子→兄弟姉妹→祖父母→おじおば→先生→他者・大人と、主人公の人間関係のいちばん外側に位置するものであり、日常的にはそれほど接触のないものです。しかし物語文の大人化により、非日常的な内容が増加した結果、人間関係も血縁関係のない大人との関係の物語が増加してきたと考えられます。当然、子どもたちにとっては読みにくいものも多くありますので、演習が必要になってきます。
今後注目したいテーマとしては「自然・環境」「食物・食品」「メディア」が挙げられます。
「自然・環境」におけるキーワードは、「保護」「保全」「里山」などが一般的ですが、光塩女子で今年度出題された「サスティナビリティ」など新しいものも注目すべきでしょう。「サスティナビリティ」とは、1980年代に欧米で提唱され始めたコンセプトで、地球社会を持続可能なものへと導く、地球持続のための考え方です。
「食物・食品」は、資源の枯渇という観点から、資源論としての「食物・食品」が語られるようになってきました。「バーチャルウォーター(仮想水):輸入された農産物や畜産物などを、もし自国内で作った場合に必要となる水の量のこと。それらの生産物を購入した消費者が間接的に水資源を消費したとする概念」などもキーワードのひとつです。
「メディア」は、昨年度は桜蔭、聖光学院、女子学院で出題されましたが、今年度は女子学院、鎌倉女学院、巣鴨で出題されました。今後も広がる可能性があります。「メディアリテラシー:情報メディアを主体的に読み解いて、評価・識別する能力のこと」などのキーワードについて、きちんと理解しておくようにしましょう。
国語は、特に論説文の場合、そのテーマについてのある程度の知識がないと読み込むことが困難になります。逆に言えば、知っているテーマについての出題はチャンスでもあります。頻出のテーマについての基本的な知識を身につけておくことが大切です。
(4)出典作家・作品のリバイバル化
頻出作家数(3校以上に出題された最頻出作家:5人、2校以上に出題された頻出作家・11人)は、昨年とほぼ変化なしでした。
今年度注目すべきことは、リバイバル作品の出題が増えていることです。3~4年前に出題された作品が再び入試にとりあげられています。良い作品はまた使おうということだと考えられます。これらのリバイバル作品については、塾の教材などに載っていることが多いですから、塾で学習したときに気に入ったら全文を読んでみるとよいでしょう。その作品が試験にも出る可能性が十分あるということです。