公立中高一貫校に行ってきました! 千葉県立千葉中学校の授業公開ルポ

マイナス200℃の液体窒素を使い、
気体から液体への変化を体感─理科

「冷た〜い!」「おおおっっ!」「おもしろ〜い!」
理科の実験室で、生徒たちの大きな歓声が上がりました。中1の理科の授業で、液体窒素を使った実験が行われているのです。液体窒素は、約マイナス200℃の低温になる液体。つけるとバナナがカチカチに凍ったり、机の上に少しこぼすと途端に白い粒のようになって四方に散ったりと、次々くり広げられる魔法のような現象に、生徒たちはまるで小学生に戻ったかのようにはしゃいでいます。興奮が頂点に達したのが、液体窒素に一瞬、手を入れてみたときのこと。これまで経験したことのないような冷たさに、蜂の巣をつついたような騒ぎになりました。

ところが、先生が「みんな、手がぬれている?」と疑問を投げかけると、生徒たちの表情がとたんに引き締まり、「ぬれてない!」とあちこちから声が上がります。そして、先生の「水の中に手を入れるとぬれるよね? じゃあ、どうして液体窒素はぬれないのかわかる?」との問いかけに、じっと考え始める生徒たち。先生から指名された生徒が、「気体になったから」と答える頃には、教室がシーンとしています。ここから、この日のテーマである「物質の状態変化」「気体の性質」の授業が深まっていきました。

この授業の大きな工夫点のひとつは、液体窒素を利用していること。すでにお伝えしたように、普段の生活では体験できない超低温の世界が、子どもたちを虜(とりこ)にしていました。しかし、液体窒素を使用したのは、単なる興味づけからではありません。この単元のポイントは、温度の変化によって物質の状態が気体・液体・固体と変化すること。通常の授業では、温度を上げて、固体から液体、さらに気体へと変化する様子しか目にすることができません。しかし、液体窒素があれば、それとは逆の変化を目の当たりにすることができる。そんな体験を通じ、興味も理解も深まるというわけです。授業の後半、先生が息を吹き込んでふくらませた風船が、液体窒素につけるとみるみる小さくなっていく様子を見る子どもたちの目の輝きは、そんなねらいが十分に達成されたことを物語っていました。


液体窒素の超低温の世界に、生徒たちは興味津々先生の手元に、すべての生徒の視線が集まる
 
実験のときとは打って変わり、プリントの作業に集中 

「自ら考え、行動する力」の育成が
確かな成果を上げつつあることを実感

千葉中の校内を歩いていると、模造紙を使った発表物があちこちに飾られているのが目につきます。「アイマスクをつけ、目の不自由な人が街を歩くときどのような不便を感じるかを体験してまとめる」といったフィールドワーク的なもののほか、理科なら「真空」をテーマにした発表など、通常の学習内容の枠を超えたものも少なくありません。タイトルをいちばん上ではなく真ん中に書いてみたり、写真や図表をちりばめたりと、まとめ方にも個性が見られます。

最も目をひいたのが、平成20年10月18日の「第1回千葉中アカデミア」で発表された物です。「千葉中アカデミア」とは、総合的な学習の時間を利用した「ゼミ」と呼ばれる学校独自のカリキュラムの成果発表会のことで、国際理解、福祉・医療、産業・情報、環境、人間という5つのテーマに分かれ、少人数ゼミなどで考えを深め、調べた結果を個人研究として発表しました。一つひとつに工夫が感じられ、見ていて飽きることがありません。映画の字幕と直訳との違いを研究した発表は、中1の学習範囲をはるかに超えた英語力が感じられます。スポーツの一流選手について調べるため、選手の出身高校を訪れて担任の先生にインタビューするという、卓越した行動力を示した発表物もありました。

こうした発表物や公開された授業からは、同校の江﨑俊夫校長先生が力を入れていると語る、「自ら考え、行動する力の育成」が確かな成果を上げつつあることが感じられます。
「学習意欲を失わない教育を通じて、主体的に勉強に取り組む姿勢を身につけることが、本当の学力を育て、生きる力にもつながる。高校受験がないからこそ、中学3年間をかけ、じっくりとそんな力を養っていけると考えています。また、本校では高校進学段階で新たに生徒たちが入学してきますから、中学から進んだ生徒たちと彼らが刺激し合うことで生まれる効果にも期待したいですね」(江﨑校長先生)

千葉中の設置母体校となる千葉高校は県内屈指の進学校ですが、大学受験のためばかりでなく、学問のおもしろさを追求する学びを実践し、数多くの優秀な人材を輩出してきました。そんな伝統に、今回紹介したような中高一貫校としての新たな学びが加わることで、いったいどんな個性豊かな人材が生まれるのか、大いに期待が高まった1日でした。


廊下にズラリと並んだ発表物の数々

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「進研ゼミ小学講座」は2020年新課程に対応して、リニューアル。基礎から応用までの学力向上はもちろん、自ら学ぶ姿勢を身につける。
学んだ知識を使って、自分なりの答えを導き出す。そんな体験を繰り返すことで、「自ら考え表現する力」を育んでいきます。

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