【回答:日高のり子・森上教育研究所】家庭学習・家庭内コミュニケーション

「中学受験は親子の受験」とも言われ、保護者のかたの役割はとても大きいもの。受験準備が進むにつれて、心配事や気がかりもいろいろ出てくるでしょう。よくある相談事例について、専門家の先生がたや、合格家庭の先輩保護者のアドバイスを集めました。

マイペースな子の伸ばし方は?

子どもに家庭の経済事情を話してもいいのでしょうか?

地方から受験する際の留意点、想定外の受験にモチベーションを上げる方法は?

目的がないと行動できないわが子に、受験を意識させるには?

マイペースな子の伸ばし方は?

マイペースで、何ごともゆっくり取り組む子の伸ばし方を教えてください。
【森上教育研究所】
マイペースでゆっくり受験勉強に取り組まれたのでは、保護者のかたがいらだつこともあるでしょう。特に、お子さんの成績が不振なときはイライラしてしまい、小言を連発してしまうのではないでしょうか。マイペースであることとゆっくり取り組むことは、別のことです。マイペースでスピーディーに受験勉強に取り組むのであれば、イライラしなくともすむと思います。誰でもいやなことはだらだらする傾向があるのですが、相談の文面では「何ごとも」とあるので、いやな勉強なのでゆっくり取り組むということでもなさそうです。

受験勉強での「マイペース」は、良い方法があっても取り入れないので勉強の効率が悪い傾向があることと、好きな勉強しかしないので不得意な分野・単元・科目ができやすくなるということが、デメリットとして挙げられます。一方メリットは、周囲の状況に惑わされないので、目的志向で計画的に勉強する人は着実な成果を期待できることです。
「ゆっくり」は、学習進度が遅いこととテストで時間が不足することで、受験にはデメリットです。例えば、入試本番でゆっくり問題を解いていたら、解ける問題も時間不足で手をつけられず不合格になります。「ゆっくり」の直し方は、まず、自分が「ゆっくり」であることを自覚させることです。そして、自分から直そうという気持ちにさせてください。

【日高のり子】
うちの子もマイペースタイプです。塾で初めてのテストを受けたのは小5のときでしたが、国語の難しい読解問題にひっかかって最後までいけず、漢字や語句など簡単な問題を落とし、悲しい点数をとってしまったことがありました。
国語は得意科目だったので、本人の落ち込みは相当なものでしたが、「テストは解く順番を考えて漢字や語句などを先に急いでこなせば大丈夫」と教えてから同じ失敗はありませんでした。

マイペースな子には、時間割を考えて1週間のスケジュールを立てて、勉強をさせるといいみたいです。朝起きたら漢字と算数の一行問題をやる、学校から帰ったらこれをやる、など、親子で相談しながら表にして、終わったらチェックするという方法です。ポイントはこなせる量を見ながら微調整し、終わった! やった! という気分にさせてあげることです。

子どもに家庭の経済事情を話してもいいのでしょうか?

偏差値だけにとらわれるのはよくないですが、わが家にとっては高い学費を少し無理しながら払っていくのだから、将来的に有名大学に入れる学力がつく学校に行ってほしいと思ってしまいます。小学生の子どもには、家庭の金銭的な事情を話すのはよくないことなのでしょうか。
【森上教育研究所】
「金銭的なことは話さず、子どもはおおらかに育てたい」というご家庭もあれば、「子どもの頃から優れた金銭感覚を身につけさせたい」というご家庭もあると思います。つまり、家庭の教育方針や子どもの個性によって、対応は異なると思います。また、これまでは子どもをおおらかに育てるのが主流でしたが、これからは社会の厳しさにも耐えうるように子どもを育てていくことも必要かもしれません。

金銭的なことを子どもに話すのであれば、「これだけ教育にお金をかけているのだからもっと勉強しなさい」のような、子どもに勉強を押しつける話し方はすべきではありません。子どもにしてみれば、「教育にお金をかけているのは親が勝手にやっていることなのに、どうしてそこまで恩着せがましく言われなければならないのか」と反発したくもなります。反発されるのであれば、受験にはデメリットとなりますので、やめたほうがよいでしょう。

「家庭の金銭的な事情を話す」ことを受験のメリットにするためには、教育の重要性を子ども自身に感じさせることです。教育費のことを親のほうから話すとどうしても、勉強をがんばらせるための説教になりますので、子どもにもわかりやすい「食費」などに比べて「教育費」がどれだけかかっているか、家計簿を見せて、子どもが「教育費はこんなに高いのか」「それだけのお金をかける教育は大事なんだ」と考えられるように伝えるべきでしょう。

【日高のり子】
難しいですね。子どもが行きたいという学校が経済的に難しいという場合は、話すことの必要性を感じますが、そうでないなら話さないほうがいいと思います。それよりも、将来的に有名大学に入れる学力をつけてくれそうな学校を探してあげて、せっかく受験するのだからこういう学校がいいと思うと、お金のことは抜きにして、ご両親の考えをお子さんに伝えてあげてはいかがでしょうか。
そういう学校をいくつか選んで、子どもに見せて自分が行きたい学校を選ばせる、そのほうが受験のモチベーションも上がると思います。

地方から受験する際の留意点、想定外の受験にモチベーションを上げる方法は?

来年4月に、父親(現在、単身赴任中)の転勤のため、大分から東京へ引っ越すことになり、中学受験を決心しました。これまでは当然、本人は受験するなど考えたこともなく、彼にとっては降ってわいた災難で、モチベーションも今ひとつです。地方から受験する場合の留意事項、息子をその気にさせる良い方法があれば教えてください。
【森上教育研究所】
現在6年生で、来年の4月から東京の中学に入学させるのであれば、志望校の難易度にもよりますが、明らかに準備期間が短すぎます。「準備期間が短いからこそ、子どもをやる気にさせることが必要だ」と言われれば、それはもっともな話ですが、短期間の準備で、地方から東京の中学に合格させるには相当の苦労を覚悟しなければなりません。

地方からの受験で問題なのは志望校の選定です。選定方法は、まず、お子さんの偏差値と通学時間でいくつかの学校に絞り込み、学校説明会や文化祭に参加して決定していく手順です。お子さんの偏差値を知るためには、首都圏の学校をカバーする模試を受けなければなりませんが、土地勘がないため、学校がわからないので志望校が書けないという問題が起こります。また、遠距離のため、志望校の学校説明会や文化祭に参加するのも大変です。

子どもをやる気にさせるためには、まず、明確な志望校という目標を決めなくてはなりません。そして、その目標は、子どもががんばれば達成できるかもしれないというものでなければなりません。さらに、目標を達成する具体的な方法を子どもに提示し、子どもに納得させなければなりません。塾に通う必要もあるでしょう。その際には塾や個別指導の指導担当者がゴールへの到達方法=学習方法を子どもに示し、子どもに「自分にもできそうだ」と思わせなくてはなりません。

【日高のり子】
私の知り合いで、同じようにお父さまのお仕事の都合で上京することになり、受験されたかたがいらっしゃいます。いちばん大変だったのは学校選びだそうです。そのためにわざわざ東京に出て来なくてはなりませんものね。
そのお母さまは東京の受験事情を知るために、東京にある大手の塾の地元校にお子さんを入れたそうです。けっこう厳しくてお子さんは大変だったようですが、今は東京の私立中学に通っていらっしゃいます。
モチベーションを上げるには、なぜ受験するのか、受験するとどんないいことがあるのか、それをしっかり理解させることだと思います。
子ども自身がここに通いたい! と思うことが、モチベーションを上げる近道だと思います。

目的がないと行動できないわが子に、受験を意識させるには?

優等生でもない、虫好きな男の子です。小さい頃から、何を言っても目的がないと行動しません。小4で受験に意識や目的をもたせるのは無理だろうと思いますが、公立では何にでも興味をもっていかれ、惑わされ、流されてしまうと思うのです。そんなわが子に、どう受験を意識させるか悩んでいます。
【森上教育研究所】
「何を言っても目的がないと行動しません」ということですが、すばらしいではありませんか。目的志向を身につけさせるのは大変な時間と労力がかかります。それをすでに小4で身につけているわけです。今後、お子さんが急激に成長する日が必ずくると思います。

目的志向の人間は、目的をもつと集中して取り組み、爆発的なエネルギーで目的を達成することができます。目的をもたせるためには、目的が本人の興味のあることでなければなりません。まだ小4ですから積極的に勉強することはほとんどないと思います。「小4で受験に意識や目的をもたせるのは無理だろうと思います」は、ある意味正しいと思います。

しかし、勉強は何かをするために必要なことですから、それがわかる年齢になれば、本来の目的のためならば、目的志向の人はいやな勉強も積極的に取り組むことが自然にできるようになると思います。小4の子どもでも、親が受験に意識や目的をもたせてあげることで、積極的に受験勉強に取り組むことができると思いますし、また、そうすべきです。

お子さんが目的志向であれば、親がお子さんの興味のある目的を見つけてやり、お子さんがその目的のために受験勉強することが必要だとわかれば、受験に対する意識が出てくると思います。あまり高尚とは言えませんが(私は意義があると思いますが)、物でつって勉強させるのも、同じ原理です。受験勉強をしなければ手に入らない、お子さんが本当に欲しい物は何か? それがわかれば受験に意識や目的をもたせることができます。

【日高のり子】
受験を意識させるには、ここに入りたい! と思わせるのがいちばんだと思います。うちの子が初めて私立中学に行ったのは、小4の夏でした。その時の感想は、「きれい」「広い」「かっこいい」「楽しそう」でした。そして「中学は地元の公立ではなく、ここに行きたい!!」と言ったのです。
それから、ここに入るにはテストがあって、合格しないとだめなのだと説明しました。テストに合格するためには、塾に入って、そのための勉強をしないといけないと話すと…「じゃあ塾に行く!」となったわけです。
おいおい5年、6年となるにつれ、親よりも子どものほうが受験に詳しくなっていきます。だからこそ、あまり構えず子どもにわかる言葉で受験の目的を伝えてあげてください。

プロフィール



【日高のり子】『タッチ』(浅倉南役)、『となりのトトロ』(草壁サツキ役)でも大活躍の声優。ブログ「日高のり子の中学受験ホンネで語る成功と失敗」が人気。
【森上教育研究所】中学受験と私塾、中高一貫の中等教育と私学を対象とする調査・コンサルティング機関。

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