世田谷学園中学校1年生 Y・Yくんのお母さま

最後まで迷った受験校選び。偏差値ではなく、問題との相性が大事だと実感

家庭では、どのようにフォローされたのですか。

うちの場合には、日常の勉強は私が見ていました。父親は細かいことには口を出さないけれど、ここぞというときには怒り役に徹するという役割分担でしたね。姉は自分でスケジュール管理もできる子どもだったのですが、弟はそういうわけにはいかなかったので、1週間のスケジュール表を作って、どの時間に何をするという計画を立てさせました。また、理解しても定着するまで繰り返すことを嫌がるタイプなので、私が間違い直しノートをつくり、間違った問題だけを抜き出してコピーをとって切りばりし、できるまで繰り返すようにしました。新しい問題に手を出すより良いと思ったからです。最後の半年で20冊以上になりました。最後にそのノートを積み上げて、「これだけやってきたのだから、力はついているよ。大丈夫」と励ましました。受験が終わって、それまでの問題集などすべて処分しましたが、このノートだけは今でも捨てられずにとってあります。

また最後の1ヶ月は、一緒に過去問に取り組みました。実は、1月に帰国枠で桐光学園を受験したのです。受験科目は算数だけで、算数が得意だったので、本人はこれで合格したらラッキーと思っていたようです。しかし、結果は不合格。さすがに本人も落ち込んでいましたが、「ここまできたんだから最後まで一緒に頑張ろう」と励ましたら、「頑張らないと」と思ったようでした。それまでは、4教科分の過去問を一度に解くのも嫌がっていたくらいでしたが、それからは一生懸命取り組んでいましたね。まず、山手学院の過去問を解いてみたところ、これは余裕で合格点をとれました。しかし、桐光学園は何回やってもぎりぎり合格点にしか届かない。反対に世田谷学園の問題を解いてみたところ、意外に高得点がとれたのです。偏差値ではなく問題との相性があるなと思いました。
もしかしたら、世田谷学園の方が可能性があるのではないかと思ったので、本人に聞いてみたところ、「受けられるものなら受けたいよ」というではありませんか。それが入試1週間前。それなら、チャレンジしてみようというわけで、願書受付最終日に提出し、世田谷学園を受験することにしました。結果は合格。最初本命だった桐光学園は3回目まで出願していたのですが、本人は受けないというので、1日で入試が終了してしまいました。

世田谷学園は、文化祭に行ったときの在校生の対応がとてもよかったのが印象に残っていて、本人の心の中では憧れの学校だったようです。一番いい結果に落ち着いてほんとうによかったです。


テニスをなさっていたということでしたが、最後まで続けたのですか。

いえ、6年生になった時にやめました。それまでは週2日で時間も早かったので、練習から帰ってから勉強もできたのですが、6年生になると週3日で練習もハードになり、帰りが遅いので、帰ってくるとぐったりして、その日はもう勉強ができなくなってしまったのです。主人も「このままではどっちも中途半端になるから、受験をするならやめたほうがいい」と申しまして、本人と「1年間は受験勉強に集中しよう」と話してやめることにしました。

テニスをやめたおかげで、いいことが一つありました。それは本を読むようになったことです。時間ができたけれど、塾と勉強以外はやることがなくなって、唯一の息抜きが本を読むことだったのです。その結果、不思議なことに国語の成績がぐーっと上がりました。ただ、体を動かすのが大好きな子どもなので、ストレス解消のために部屋にサンドバッグを置いてやりました。受験勉強の合間にそれをけっていましたね。


受験が終わって今どのように思っていらっしゃいますか。

子どもによっては、高校受験でもよいと思うのですが、これだけ、世の中が早く結果を求める風潮にあると、逆らってじっくり子どもを見守るというのはなかなか難しいものです。

うちの場合は、お話ししたとおりの試行錯誤で大変でしたが、受験をさせてよかったと思います。受験をしたおかげで、学習する習慣が身につきましたし、一つ一つのことを乗り越える達成感を味わうこともできました。また、目標をクリアしていくことを体験できてよかったですね。何より、「やればできた!」という体験をもてたことはこれから自信になるのではないでしょうか。

中学受験は親が手をかけますが、これからは自立させなくてはならないと思っています。その前に、父や母が勉強のやり方を教えてあげられた点もよかったのではないでしょうか。

子どもは今テニス部に入って、希望に燃えて学校に通っています。学校では、1年生は管理能力を身につけさせたいと細やかな対応をしてくださるし、相手の立場にたって考えるということを教えてくださるので、うちの子どもにはとても良い学校を選べたと思っています。
受験生の皆さん、頑張ってください。

お母さま手作りの間違い直しノート。間違った問題をコピーして切りばりし、繰り返し解いていた。
頑張って勉強した証として、今でも捨てられない思い出の品だそうです。


<取材後記>

お子さんのタイプをお母さまがよく把握していらして、悩みながらも一番いい方法をと一生懸命になって一緒に頑張ったことが、成功につながったのではないでしょうか。今回の取材では、「その時点での子どもの身の丈にあった受験をして、子どもがいきいきと通える学校を選んだほうがいいのでは」というお母さまの言葉が心に残りました。「少しでも偏差値の高い学校に」という志向がありますが、中学受験をする10歳~12歳は、子どもによって成長の度合いも違います。いろいろな意味で、子どもの持っている力以上に無理をさせるのも考えものです。「何のための受験なのか」という視点を忘れないようにすることが大切なのだなと改めて感じました。(教育ジャーナリスト・中曽根 陽子)


プロフィール



教育ジャーナリスト、「登録スタッフ制企画編集会社<ワイワイネット>」代表。塾取材や学校長インタビュー経験が豊富。近著に『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)。

子育て・教育Q&A