文章を精読できません その2[中学受験]

平山入試研究所の小泉浩明さんが、中学受験・志望校合格を目指す親子にアドバイスする実践的なコーナーです。保護者のかたから寄せられた疑問に小泉さんが回答し、実際にアドバイスを実践した結果どうなったのか?という追跡結果もお届けします。

文章を精読できません その2[中学受験]



質問者
熊本県 K・Mさん(小5男子のお母さま)
子どもの性格:おっちょこちょいタイプ
志望校:国立

第二回目の質問
文章題をいくつかやらせてみました!
第一回目の小泉先生の回答アドバイスありがとうございました。
さっそく実践させていただき1週間がたちました。先生からの回答はまさにそのとおり! と納得し、うなずきながら読ませていただきました。「なぜなぜおじさん」という架空の人物をいつも意識して問題を解くという今までに聞いたことがないユニークなアドバイスに驚き、これなら子どもも受け入れてくれるかも……と期待に胸がふくらみました。
私は「おじさん」という名前を絵本に出てくる「なぞなぞライオン」をもじって「なぜなぜライオン」とさせていただきました。
あれから1週間の間に文章題をいくつかさせてみました。答えを記入して「なぜなぜライオン」にも説明できたそうです。問題文のここに書いてあるからだよ、指示されている文字数もぴったりだよと……。
ところが誤答でした。ちょっとがっかりでしたが、そううまくはいきませんよね。すぐには効果が出ないでしょうが、このことに意識をもって辛抱強くやらせてみようと思います。
それから「文中から抜き書きしなさい」という問題についてですが、箇所は合っているのですが注意力が足りないせいか冒頭の数文字をはしょったり、途中の単語を落としたりしています。きれいに抜き書きするという一見簡単なことがなぜできないのでしょうか? よろしければ教えてください。

小泉先生の第二回目のアドバイス
「精読」のプロセスを体験させてあげてください。

さっそく「なぜなぜライオン」を導入されたとのことですが、お子さまにとって大きなステップアップの機会になると思います。一般的な国語のカリキュラムでも、5年生の後半から6年生にかけては、問題の質が大きく変わる時期です。内容がより抽象的になり、今まで「感覚」で解けていたものが、「理論」でないと解けなくなってきます。毎年この時期になると、今まで比較的良かった国語の偏差値が急降下する場合があるのは、このような理由からです。入試の国語は「理論」ですから、物語文にしても説明的文章にしても、「なぜなぜライオン」を納得させられるように解いていく姿勢がとても重要です。

さて「誤答」でがっかりされているとのことですが、国語も算数と同じで「考え方」がとても大切です。たとえ誤答であったとしても、途中まで考え方が正しければ「なるほどね!」と評価してあげてください。そのうえで「問題文のここに書いてあるから」という理由付けに対して、「なぜそこが答えの理由(根拠)になるの?」とどんどん核心に迫っていきます。前回のご質問の中に「説明しているうちに『あ!』と自分の誤答に気付きます」という箇所がありましたが、「なぜ? なぜ?」で詰めていくとお子さま自身で誤答に気付き、さらに正解を見つけられるようになると思います。
このプロセスがとても大切です。これが実は「精読」のプロセスであり、ここまで緻密(ちみつ)に考える必要があることに初めて気が付くのです。そして何度かこういった思考を繰り返すことで、お子さまの中に「精読」の思考回路が構築され、やがて自分で正解を見出せるようになります。
多くのお子さまが、「精読」の意味がわかっていません。「そこまで緻密に読まなくてはいけない」とは考えていないのです。しかもこれは教えてもなかなか身に付かないようで、体験させて初めて「精読はここまでやるのか!」とわかるようになります。根気強く指導してあげてください。
ところで、ご質問の中に「指示されている文字数もぴったりだよ」と字数を正解の根拠に挙げている箇所がありました。しかし文字数は「条件」であって、正解の「根拠」にはなりません。そういう場合は、「それは理由にならないよ」と注意してあげてください。

さて、次の質問ですが、確かに「抜き出し」でケアレスミスをする生徒は意外に多いようです。場所は大体正しいのに、「冒頭の数文字をはしょったり、途中の単語を落としたり」してしまいます。もっと極端な例としては、本文には「漢字」で書いてあるのに抜き書きしたものが「ひらがな」になっているケースもあります。おそらく「答えを見つけた!」ということで、興奮してしまうのでしょう。同じミスを何回も繰り返す場合は、次のように注意すると良いでしょう。
まずそういったケアレスミスで、大切な得点を何点下げたのかをお子さまに確認させることです。そして、たとえば配点が5点だとしたら、その点数を失うことで偏差値がどれだけ下がるのかを示してあげます(意外と大きく下がります)。また本番の試験では合否のボーダーライン上に、多くの生徒が集中し、たった1点の差が明暗を分けるという厳しさも教えてあげると良いかもしれません。そしてテストにおける1点の重みや大切さを、認識させてあげてください。この気持ちがまずは大切だと思います。

次にミスを防ぐ方法としては、やはり「見直し」をおすすめします。算数で計算間違いの多いお子さまは「検算」をすることで計算間違いを少なくしていきますが、国語も同じように「見直し」をすることでミスを防ぐことができます。抜き出したらすぐに、(1)「条件は大丈夫か?」(字数、文章における範囲など)、(2)「場所は正確か?」(ご指摘の「冒頭の数文字のはしょり」など)、(3)「単語に誤りはないか?」(誤字・脱字など)をチェックさせます。特に(2)を間違えた場合は、模範解答と突き合せて、なぜ「冒頭の数文字(あるいは最後の数文字)」が必要だったかを検討させてください。なお「見直し」をしていると試験で時間が足りなくなる場合は、頻繁にミスをする設問形式を優先すると良いと思います。

プロフィール


小泉浩明

桐朋中学・高校、慶応大学卒。米国にてMBA取得後、予備校や塾を開校。現在は平山入試研究所を設立、教材開発など教務研究に専念。著作に「まとめ これだけ!国語(森上教育研究所スキル研究会)」などがある。

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