異文化コミュニケーションが子どもの可能性を広げる--英語のおもてなし【後編】

子どもでもできる外国人旅行者との交流のコツについて、カン・アンドリュー・ハシモトさんにお話を伺いました。



声かけのタイミングは、顔見知りになった時

前編では「外国人旅行者に子どもがしてはいけないこと」を説明しました。少々驚かすような内容になりましたが、要は、見知らぬ子どもから声をかけられても、外国人旅行者は警戒するだけなのでやめたほうがよいということです。一方で、そういう状況でさえなければ、外国人旅行者は子どもからの声かけに、フレンドリーに応じてくれるはずです。

私がおすすめするのは、ホテルや長距離列車内などの空間で、ある程度「顔見知り」になったあとで話しかけるというパターンです。
たとえば、ホテルのモーニングビュッフェで連日会って顔見知りになれば、子どもがホテルの宿泊客だとわかりますので、外国人旅行者の警戒もなくなります。保護者がいることも確認できますしね。そうなったら、子どもから「Good morning!(おはようございます)」や「Hello. My name is ◯◯.(こんにちは。私の名前は◯◯です)」と、多少ぶしつけな声かけをされても、ほとんどの外国人は会話に応じてくれるでしょう。それどころか、そのフレンドリーな対応に、とても喜んでくれると思います。

同様に、長距離列車内で近くの席になった時、1時間ほど様子を見て大丈夫そうと保護者のかたが判断したら、お子さんに「May I help you ?(わからないことがあれば、お手伝いしましょうか?)」や「Where are you from ?(どちらから来られたのですか?)」と話しかけてみるように、促してみてもよいでしょう。外国人旅行者は、この子は保護者と一緒で、自分たちと同じ旅行者であることがわかれば、それで安心するはずです。



「OK」は魔法の言葉

子どもが「My name is ◯◯.(私の名前は◯◯です)」や「Where are you from? (どちらから来られたのですか?)」と、学んだ英語で話しかけると、相手は当然、何かしらの返事をしてくれるでしょう。しかしその場合、もしかすると相手の返事が理解できないことがあるかもしれません。たとえば、私はアメリカ中西部のウィスコンシン州出身なのですが、アメリカ人の多くは「どこから来たの?」と聞かれれば、外国人にさえ、模範的な「I’m from America(USA).(アメリカからです)」とは答えず、「From Wisconsin.(ウィスコンシン州です)」などと、州名や地域名を言いがちです。
そんな時はそれがどこかわからなくても、ただ「OK(そうですか)」と言えれば大丈夫。相手も、子ども相手に「本当にわかった」というリアクションは求めません。「あ、この子はとにかく英語を話してみたいんだな」と、理解しているはずです。無理をしなくてもよいのです。

どこから来たのか、どこを観光するのか、どんな日本食が好きか……など、聞いてみたあとの返事の意味がわからない時も、こちらからの返事は「OK」だけで十分。「OK」は魔法の言葉です。相手もそれ以上は(おそらく)何も言いませんから、安心してくださいね。

「これではきちんとしたおもてなしができていない!」と思われるかもしれませんが、外国人観光客からすれば、安心できる場所で、日本の子どもから話しかけられておしゃべりをした……というのは、日本旅行の楽しい思い出になること間違いありませんし、それで十分満足なのです。
それだけで、お子さんは、きちんと「おもてなし」をしたことになるのです。



グローバリゼーションとはギャップを知ること

英語でのおしゃべりは二言三言かもしれませんが、それを実践することは、お子さんにとってとてもよい異文化体験になります。教科書で習ったような「想定内」の言葉や表現を、外国人旅行者はまず使わないでしょう。また、英語ひとつとっても、アメリカ英語・イギリス英語・インド英語・オーストラリア英語・シンガポール英語……などなど、各地で独自に発展した英語があり、発音や言い回しもさまざまです。同じ「Hello(こんにちは)」でも、聞こえ方も違います。こういった「想定外」のことを子どものうちから肌で感じること。それこそが、グローバリゼーションの第一歩となります。

ほんのちょっとの時間でいいんです。伝わらなくても、間違ってもいいんです。外国人とおしゃべりしてみましょう。その一瞬で、子どもは生きた言葉を知り、意思を疎通することの面白さ、楽しさ、表現の難しさといった「ギャップ」を体感します。

学校や英会話教室で教わるのとは違う反応があり、会話の際に生じるギャップを経験すること。それが、英語でおもてなしすることのだいご味です! 保護者のかたは、見える結果を求めず、また無理強いもせず、ぜひ、お子さんが安全に外国人をおもてなしするタイミングを見極めてあげ、あとは見守ってください。子どもはもちろんのこと、保護者のかた、そして海外からの旅行者のかた、みんなが楽しめる「おもてなし」となることでしょう。

プロフィール


カン・アンドリュー・ハシモト

アメリカ・ウィスコンシン州出身。(株)ジェイルハウス・ミュージック代表取締役。作詞家・作曲家。小学校でのALTを経て、教育・教養に関する音声・映像コンテンツ制作を手がけ、英語教材や教育用映像を多数制作。

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