ロンドンでの日々~夫の海外転勤と娘とわたし【第12回】英語との仁義なき戦い~娘の場合

この連載では、ある共働き家庭の海外転勤前後の様子を具体的にご紹介します。前回は筆者の英語との付き合い方についての内容でした。今回は、高校生の娘の英語との戦い(?)についてお伝えします。



夫のロンドン転勤に伴い、中学校卒業後の3月下旬からロンドンで暮らし始めた娘。
友人たちからは「○○ちゃん(娘)くらいの年齢だったら、半年もすれば英語ペラペラよ!」なんて言われましたが……実は娘にとって、英語は苦手な教科の一つ。なのに、4月からは電車を乗り継いで、片道1時間以上の道のりを1人で通学しなければなりません。幸い高校自体は日本人向けの学校なので大きな不安はなかったのですが、この往復2時間以上の電車通学を無事に毎日通いきれるのか……親子ともに不安でした。

そこで高校が始まるまでの春休みは娘と2人で英語の勉強。まずは中学校3年間のおさらい、そして、街中に出かけ、電車内の放送、お買いものの時の店員さんとのおしゃべりなど、日常的に英語に触れる機会をつくるようにしました。

しかし、当然ながら、車内放送も店員さんのおしゃべりも、とても速い! 正直なところ、私にも聞き取れないことが多々ありました。娘に至っては、もう聞き取ろうという気力もなく「お母さん、今なんて言ってた?」と私頼み。うーん、早口の英語を聞き取るのは大変だから気持ちはわかるけれど、春からの通学どうしよう……不安が募ります。

さらに、不安な気持ちになる出来事がありました。娘とバスに乗っていた時のこと。終点で降りるつもりでしたが、終点のずっと手前のバス停で乗客が皆降りていくではありませんか! 不安に思いながら車内アナウンスを聞いていると、「終点を変更しました。ここが終点ですので降りてください」とのこと。「え? え? だって、乗ったとき、行先は○○だったよね!?」……なんと途中で急に行先変更していたのです。あとで知ったのですが、ロンドンではこういうことはよくあるのだそうです。娘の通学途中で同じことが起こったら……結局、しばらくは私が途中駅まで送ることにしました。

1か月ほどの母娘通学を経て、娘は1人での通学を開始。最初のころは不安そうではあるものの、何とか無事に通っていましたが、ある朝、乗り換えに失敗! 学校とは別方向の電車に乗ってしまったのです。娘から私に「今、○○という駅に来ちゃった。どうしよう?」というメールが届き大慌て。どうなることかと思いましたが、娘は駅員さんに身振り手振りも交えて相談し、大きく遅れることなく学校近くの駅まで自力でたどりついたようです。それからは、度胸がついたのか、学校の通学生仲間と電車やバスで出かけるなど親を頼らずに、自分たちだけで何とか英語を使いながら行動するようになりました。

そして、夏休みを控えたある日、娘から「夏休み、オックスフォード(ロンドンから電車で1時間くらいの街)でホームステイしてもいい?」と相談がありました。学校がとりまとめて申し込んでくれるらしく、ほとんどのクラスメートが参加するとのこと。以前の娘なら、たとえクラスメート全員が参加するとしても「私は行かない」と尻込みしていただろうに……娘の変化はうれしい驚きでした。

オックスフォードでの約3週間のホームステイ先では、ロシアとドイツからの高校生2人も一緒だったとのこと。ほかの国から来た高校生の英語力、積極的な姿勢に刺激を受けつつも、温かいホストファミリーと身振り手振りを交え、楽しい時間を過ごしたようでした。

また、娘の学校は英語の授業時数が日本の学校よりかなり多いようです。さらに、英語でイギリスの歴史を学ぶ「英国史」という授業もあります。両方とも、はじめは大変だったようですが、最近は特に英国史の内容に興味があるのかがんばっています。

ほかにも、秋から冬にかけての毎週木曜日、朝から夕方まで「職業体験」という特別なプログラムを経験。これは、学校近くの街の小学校やお店などで働くもので、娘はチャリティーショップで働き(もちろん仕事の指示や説明はすべて英語)、テキパキと指示を出す女性店長の仕事ぶりに感銘を受けて帰ってきました。

こうした娘の姿をとおして感じるのは、面白いと感じる内容や経験が中心にあれば、英語への抵抗感や自信のなさは乗り越えられるのではないかということです。英語自体にあまり焦点を当てすぎると、英語の得意・不得意ばかりが気になってしまいます。大事なことは、英語の先に面白い何かがあることではないかと思うのです。

ところで、こうして10か月経った今、娘が「英語ペラペラ」か?と言えば、残念ながら決してそんなことはありません。若いからといって、短期間で魔法をかけたように英語が話せるようになるというのは、一部の天才を除いては幻想でしかないと思います。イギリスの地元の学校やインターナショナルスクールなど、英語のみの学校生活を送ったとしてもそれは同じで、本人の努力なくして外国語は身に付かないと痛感します。

しかし、娘の英語への姿勢は確実に変わってきました。以前は英語を聞くと「お母さん、今なんて言ってた?」と尋ねていた娘が、「今の○○って言ってたよね?」と言うようになりました。数々の経験をとおして「英語は苦手」と心の中でシャットアウトしていた姿勢が変わったこと、そして少しだけかもしれませんが英語の音に耳が慣れてきたことは、娘の英語との戦いの、今のところの成果といってもよいように思います。

次回は、イギリスと日本の生活の違いや、その乗り越え方についてお伝えします。


プロフィール



大学卒業後、約25年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育研究開発センター(現・ベネッセ教育総合研究所)で子育て・教育に関する調査研究等を担当し、2012(平成24)年12月退職。現在は夫、娘と3人でロンドン在住。

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