ロンドンでの日々~夫の海外転勤と娘とわたし【第11回】「英語」とどう付き合っていくか?

この連載では、ある共働き家庭の海外転勤前後の様子を具体的にご紹介します。前回はロンドンへの旅立ちと到着直後の生活についての内容でした。今回は、ロンドンで生活してみて著者が感じている英語との付き合い方についてお伝えします。



2013(平成25)年3月から始まったロンドンでの生活。今回は、渡英から今現在に至るまでの約10か月間の私の英語との闘い(?)や、英語について感じていることをお伝えします。

思えばロンドンへの引っ越しが決まったとき、私は「これまで先送りにしてきた英語の勉強をやるのは今だ!と神様が言っているんだわ」と思い、英語学習意欲がわいたものでした。しかし、先送りにする人間は、しょせん、切羽詰まっても先送りにするもので、日本を出るまでは、仕事や引っ越しなどを言い訳に、買ってきた本の表紙すら開くことはありませんでした。準備は不十分、しかもイギリス英語は発音も独特らしい……不安が募る旅立ちとなりました。

それでも、ロンドンで暮らし始めた最初の2日間くらいは夫が休みを取ってくれていたので、出かける時も夫頼み。しかし、夫の休み明けからはそうはいきません。英語への自信の無さから出かけるのが面倒でもありましたが、娘の学校が始まって忙しくなる前に、母娘でロンドンの街や地理にも慣れておきたいという思いもありました。

そこで、意を決し娘を連れて近所のお店やショッピング街へと出かけてみました。一歩家を出れば聞こえてくるのは英語ばかり……と思いきや、周りから聞こえてくるのは、意外にも英語ではない言葉ばかり。ロンドンにいると、本当にたくさんの種類の言葉を耳にします。もちろん、日本語も。ロンドンは今や世界きっての多人種・多文化社会なのです。

私と同じ、英語とは異なる母語を持った人たちが英語を使っている社会なのだと思うと、日本から来てジャパニーズイングリッシュしか話せない私……と縮こまっていた気持ちが緩み、楽になりました。皆、それぞれの母語のイントネーションなどの「なまり」を持っているので、日本人も気後れする必要なんてないのです。

それからは、たとえ単語の羅列でも、とにかく話してみようと心がけています。英語が母語の人たちも、つたない私の英語を辛抱強く聞き続け、「こういうこと?」と別の言葉に言い直してくれて、それを聞き「あー、そういう言い方すればよかったんだ!」と学ぶことができる……語学は、使ってみて、その失敗から学ぶことのほうも大切だと実感します。

もちろん、失敗ばかりしてもいられないので、語学学校にも通っています。ちょっと自分には高めのレベルのビジネスクラスに通った時のこと。同じクラスの生徒は、ヨーロッパ各国から集まった英語でビジネスをしている人ばかり。それぞれの「お国なまり」をものともせず、猛烈な勢いで話し続けます。私は、自分が話さなくてもレッスンが進んでいく状況で、同じスピードで言いたいことを話す自信もなかったので、最初は尻込み気味でした。しかし、このままでは高い授業料の元が取れない!と覚悟し、めちゃくちゃな英語ではありましたが、どんどん発言してみました。

すると皆、私の話に興味を持ってくれて、質問してくれたり、自分の意見を言ってくれたりします。私は、日本での仕事の経験からのお話をしたのですが、その内容に興味を持ってくれたようです。英語が上手いか、発音がいいか……日本人が英語に持つコンプレックスはそういうことに向かいがちですが、意外とそこは壁にはならず、関心を持てる話題を持っているか、伝えようとしているかの姿勢が大切なのだと感じました。

一方で、クラスの中で文法などのテストをすると、すらすら英語を話すクラスメートよりも私のほうがいい点数だったこともありました。私が、特に文法が得意なわけではなく、おそらく日本人は自分が思っているよりも、中学校・高校での英語の授業やテストをとおして、基本的なことは繰り返ししっかり身に付けているのではないかと思います。

それでも、たとえばニュース番組を見たり、新聞を読んだり、銀行や役所で手続きしたり……日常生活のさまざまな場面で、見たことも聞いたこともないような単語や表現に出合い、辞書を引くこともしばしばです。日本でいくら勉強しても、イギリスならではの単語や表現、流行の言い回しなど、住んでみないと出会いにくいものはたくさんあるのです。それは、出会った都度、覚えていくしかない。しかし、新しい言葉に出会うことは楽しいことだし、その言葉をとおしてイギリスの姿がいろいろ見えてくる……言葉はその社会を理解する窓口なのだと思います。

英語に限らず、外国語を学ぶことは、違う社会や文化を深く理解していくこと。自動翻訳機ができたとしても、自分でその言葉を理解しようとしなければ、相手ともわかり合えるとは思えません。さらに、違う社会や文化を理解することで、自分たち自身をよりよく理解できるようになると感じます。私の英語力は、今のところあまり大きな進歩はありませんが、違う国の言葉を理解しようとする努力を続けることは楽しいことだし、英語に限らず、外国語に興味を持ち続けて付き合っていきたいと思っています。

次回は、高校生の娘のイギリス生活と英語体験についてお伝えします。


プロフィール



大学卒業後、約25年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育研究開発センター(現・ベネッセ教育総合研究所)で子育て・教育に関する調査研究等を担当し、2012(平成24)年12月退職。現在は夫、娘と3人でロンドン在住。

子育て・教育Q&A