ロンドンでの日々~夫の海外転勤と娘とわたし【第18回】ロンドンの子育て環境 その2~社会全体の子育て支援
この連載では、ある共働き家庭の海外転勤前後の様子を具体的にご紹介します。前回はロンドンの子育て環境、特にベビーカーの問題について取り上げました。今回は、出産前後、また、もう少し年上の子どもまで含めたロンドンの子育て環境、子育て支援についてお伝えします。
娘の高校入学と同時にロンドンに住み始めた我が家。娘の高校は日本人向けの学校ではありますが、さまざまな手続き等をする中でイギリスの子育ての環境や行政支援について、日本との違いを感じることが多々あります。
まず最初に戸惑ったのは、娘の入学書類。たくさんの書類の中に「GP登録」という言葉が……。調べてみると、イギリスにはNHS(National Health Service)という国営の医療制度があり、GP(General Practitioner)というのは、このNHSを利用するために必要な「かかりつけ医」のことでした。NHSでは、病気やけがの検査や治療のほか、救急医療や出産、予防接種等が無料(!)で受けられます。
実際に、私の若い友人がロンドンで出産したのですが、彼女はNHSを利用したため出産に関する費用は無料だったそうです。また、うちの娘が学校の歯科検診で歯科矯正をすすめられましたが、養護教諭の先生のお話では16歳になるまでは歯科矯正も無料とのこと。よい機会だと思い、娘に熱心にすすめたものの、結局我が家は利用せずに終わりましたが、無料で医療が受けられるというのは、本当にありがたいと思いました。ただ、この制度については、財政面や医療内容の質など、さまざまな課題があるようではありますが。
出産の話に戻りますが、NHSでは無料の出産準備学級(マタニティー・スクール)も行われているそうです。日本でも保健所や産院などで実施されていますが、イギリスの場合は夫婦で参加できる夜のコースもあるそうです。出産後の子育てのことを考えると、夫婦で受けやすいコースがあるのは、ありがたいですよね。
出産したらその日のうち、もしくは翌日には退院する場合が多いというイギリス。そんなに早く退院して大丈夫かな?と心配になりますが、産後10日目くらいまでは助産師さんが、その後は保健婦さんが各家庭を訪問して、赤ちゃんやお母さんの様子を見てくれたり、悩みなどの相談にも乗ってくれたりするそうです。
幼児期の教育・保育施設もバラエティーにとんでいるようです。幼稚園や保育園はもちろん、週1~2回、0~4歳の子どもとその保護者が参加できる気楽な教室や、週3~5回程度、5歳くらいまでの子どもが参加できるプレイグループなど、子どもや家庭の状態によって、利用するサービスや施設を選べるようになっているそうです。子どもが小さいうちから、母親の就業の有無にかかわらず、子どもと保護者が交流できる場がいろいろとあるのは、とてもよいことだと思います。
また、小学生以上の子どもも含めた子育てで、ロンドンに住んでいてありがたいと思うのは、地下鉄やバスなどの料金の大幅な割引でしょうか。うちの高校生の娘はバスと地下鉄を乗り継いで毎日学校に通っていますが、ロンドンの地下鉄の料金の高さは世界有数だそうで、正規の料金で毎日通学となると本当に大変!ですが、ロンドンにも日本のSuicaなどと同じようなICカードがあり、これを使うと地下鉄やバスの料金が大人でもだいぶお安くなります。さらに学生の場合は、その年齢等によっても割引率は異なりますが、顔写真入りの「フォトカード」というものを作れば、かなり大幅な割引が受けられます。せっかくロンドンに住んでいるのだから、子どもをいろいろなところに連れて行ってやりたいと思いますので、交通費が安く済むのは本当に助かります。
おでかけ、ということで言えば、ロンドンでは博物館や美術館などの多くが入館料無料です。あの大英博物館も、数多くの名画が展示されているナショナル・ギャラリーも無料。「今日はちょっと時間があるから、大英博物館に行こうか」と気楽にでかけることができます。その他、「キッズ・ウイーク」と言って、学校のハーフタームという休暇に合わせて、ミュージカルや子ども向けの施設、イベントなどのチケットが大幅に安くなる時期もあり、たくさんのかたが利用しているようです。
日本でも、以前よりも子育て支援は充実してきていると思いますが、他国の工夫もどんどん取り入れながら、更に子どもが育ちやすい、子どもを育てやすい環境にしていけるといいな、と感じます。
次回は、ロンドンで生活して1年たった娘の変化(?)、様子について、お伝えします。