考える力・聞く力を育てる「哲学対話」とは? 授業に取り入れる学校も

「哲学対話」を知っていますか? 哲学というと何やら難しいもののように感じますが、専門的な知識は不要。日常で感じる問いに対し、考えたことや感じたことをみんなで話し合うもので、答えを出すことは目的ではありません。子どもたちの思考力を育てる手法としても注目され、学校の授業に取り入れるところも増えてきています。
ここでは、哲学対話とは何か、そして学校での取り組みの実態について、哲学対話の普及と実践を行うNPO法人こども哲学・おとな哲学アーダコーダの副代表理事である井尻貴子さんにお話を伺いました。

(撮影:鈴木智哉)

この記事のポイント

哲学対話とは?

「哲学対話」という言葉は2010年以降に使われるようになってきたのですが、専門的な知識は必要とせず、日常の中で感じる哲学的な問いを、みんなで対話して深めていく活動です。

日本で2011年に公開されたフランスのドキュメンタリー映画『ちいさな哲学者たち』では、幼稚園の授業で「人を好きになるって?」「自由って何?」といったテーマについて子どもたちが語り合っていて、子どもの哲学対話の具体的な様子を知ることができると思います。

子どもと哲学を結び付けたものとしては、アメリカの哲学者マシュー・リップマンが1970年代に始めた教育運動が始まりで、「子どもの哲学(philosophy for children:p4c)」と呼ばれています。哲学的な対話などを行うこの運動は、その後世界各地に広がり、それぞれの場所で、それぞれの実践者のスタイルで行われています。日本では、2000年ごろから取り組まれるようになりました。

国によっては子どもに対する哲学教育に力を入れていて、フランスで義務教育に哲学の授業があることは有名ですが、オーストラリアなども独自に取り組んでいます。

学校で行う目的は「思考の深まり」と「コミュニティの醸成」

「哲学対話」の実践は日本の学校でも増えてきていて、さまざまな年齢のところで行われています。

新潟大学の豊田先生によると、学校で哲学対話を行う目的は、おもに「思考の深まり」と「コミュニティの醸成」が挙げられます。この2つが探究の両輪であることは、子どもの哲学の重要な特徴とされていて、「教室を探究の共同体に変える」という大きな目的のために哲学対話を取り入れている学校も多いと思います。また、その基盤・前提条件であり目標でもあるのが「セーフティ」という概念です。自分の意見を安心して話せる、自由に考えてそれを相手に伝えてよいと思える安心感、安全性が、子どもの哲学では重要視されています。

セーフティが低いというのは、「こういうことを言ったら馬鹿にされるのではないか」、「みんな同じ考えだから、自分が言わなくてもいいや」、「かっこいいこと言わなくちゃ」、と思ってしまう状況。逆にセーフティが高い状況では、みんなが自由に考えたことを話せるので、思考の深まりや、コミュニティの醸成を図ることができます。

哲学対話で大切にする3つのアプローチ

セーフティを担保し、有意義な哲学対話を行うため、子どもの哲学ならではのユニークなアプローチが3つあります。

①子どもの問い(ワンダー 不思議だな、どうしてだろう、という気持ち)を大切にする
②多様性を最大限に生かす
③場をつくる役割を子どもたちにも委ねていく

これらは、従来の学校教育にはあまりなかったものです。具体的にみてみましょう。

①子どもの哲学では、「なんでだろう? どうしてだろう?」という子どもの問いを出発点としています。一概にはいえませんが、先生の問いに子どもが答えることが多い学校のテストなどとは、かなりアプローチが異なります。子どもの哲学では、子ども発の問いを大事にし、先生や大人も知らないようなこと、正解のないようなことを一緒に探求していきます。

②正解のない問いについてみんなで話していると、違う意見が出ることがありますが、その違いが思考を深めるきっかけになります。多様な意見が出ることにより、問いについて多角的に考えることができるのです。正解がある問いについて考えると、どうしても異なる意見や多様な考えは脇にやられてしまいがちですが、哲学対話では、多様な視点が共有されることで、自らの思考が揺さぶられ、世界を見る眼がより豊かになっていきます。

③セーフティが低かったか高かったか、子どもたちに確認します。もし低かったら、どうしたら高くなると思うか、継続的に哲学対話を行っている学校だと一緒に考えていくことができます。大人が用意したものを提供するのではなく、子どもたちも一緒に場をつくっていくところが、通常の授業とは大きく違います。

学校で哲学対話に取り組むと、子どもたちの感想で多いのは、面白い、楽しい、といったものです。「同じクラスの子がこんなふうに考えてたんだって、初めて聞いた」と。普段はなかなか話せないようなこと、重たいと思われそうな内容も、この場だと話せるし、聞いてもらえる体験が、新鮮で面白いようです。

また回数を重ねることで、思考力も深まり、コミュニティができていきます。同じ集団で続けることで、お互いの問いを大切にできる、自分で考えることができる、考えたことを話してみることができる。また、他の人の意見に耳を傾けることができる、他の人の意見を尊重しつつ一緒に考えることができる。もともとの人間関係があることによる難しさもありますが、学校で哲学対話を行う良さとしては、そういった力の醸成が挙げられます。

まとめ & 実践 TIPS

哲学対話によって、思考力の深まりとコミュニティの醸成が図れるとのこと。学校のように、集団で学びに向かう場においてはもちろん、人との関わりの中で生きていくうえで重要な力ではないでしょうか。後編では、哲学対話をご家庭で取り入れるときのポイントについて伺っています。

参考文献:豊田光世 2020『p4cの授業デザイン』明治図書

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(取材・文/荻原幸恵)

プロフィール

NPO法人こども哲学・おとな哲学アーダコーダ

特定非営利活動法人 こども哲学・おとな哲学 アーダコーダは、正解のない問いについてグループで考える哲学対話を社会の中で実践的に活用するためのスキルやプログラムを提供するNPO法人。毎日のくらしの中にある正解のない疑問や不思議のタネについて、あーだこーだと考えを交換し、お互いが時間をかけて考えを深めることができる時間を提供している。

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