現代アートの楽しみ方 李禹煥(リ・ウファン)美術館での鑑賞体験を通して小学生が身に付けたもの【直島アート便り】
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直島小学校では、瀬戸内の自然と共生する現代アート作品の鑑賞を授業に取り入れています。今回は、11月に行われた李禹煥美術館での小学校6年生のワークを事例に、現代アートの楽しみ方や身につく能力についてご紹介します。
李禹煥 「無限門」2019年
観察力を身に着ける:気になったものを見つけよう
現代アートは一見わかりにくいものも多いですが、それゆえ鑑賞する人によって様々な解釈ができることが特徴のひとつです。解釈に決まった答えはなく、それぞれの頭に浮かんだものが全て正解です。直島の子どもたちは、生まれたときから地元にアートがある環境で、日常生活の様々な場面でアートに触れながら育ちます。直島の作品は素材も手法も設置場所も様々なので、「この作品は一体どんなものなのだろう?」という好奇心から、たくさんの疑問が生まれます。空間を動き回りながら色んな角度で眺めたり、近くでよく観察して模様を見つけたり、温度や硬さを想像して素材について考えたり、児童によって気になるポイントも様々です。時間や季節によっても作品の印象は変化するので、繰り返し訪れることで新しい発見もあります。この、自分で「見つける」ことと「なぜ?」の問いを発する経験により、主体性が身につきます。
スタッフと一緒に作品を観察する児童
柱の高さを影の歩幅で測る児童
表現力を身につける:思ったことは発言し合おう
作品を見て気づいたこと、不思議に思ったこと、考えたことは、言葉にしてアウトプットすることで、より自分の考えを理解することができます。発言してみると少し考えが変化したり、自分の解釈を客観的にとらえたりするきっかけにもなります。芸術的な解釈をする必要は全くなく、子供たちのように何でも臆せず言葉にすることを繰り返すことで、思考と表現をスムーズに行う練習にもなり、表現力が養われていきます。
直島の児童は仲間の発言にも興味を持ち、どんどんアンテナを広げていくことで、自分が気づいていなかったものを発見することを楽しみ、共感力や多様性理解も自然と身につけていきます。
「関係項—点線面」にて、自分なりのタイトルを考える児童。「文房具」「教室」「隕石」など色んなアイディアが飛び交いました。
李禹煥美術館 「関係項—点線面」2010年 写真:山本糾
仲間と一緒に創造力を育む:物語を作ろう
「なぜこの作品はここに置かれたのだろう?」「作家はどんなことを思ってこの作品を作ったのだろう?」という疑問は、自分なりの作品の解釈を深めるために重要な視点です。例えば、李禹煥の作品にはよく自然石が使われますが、それぞれの石はいつからどこに存在しどんな環境にいたのかを思いめぐらせてみると、人間の想像をはるかに超えたストーリーがあるように思えます。直島小学校の授業では、4名程度のグループに分かれ、作品から想像できる物語を作るワークを行いました。
一人ひとりが考えるアイディアを皆で共有し繋ぎ合わせていく作業により、積極性や協調性が育まれます。答えが決まっていないワークに取り組むことで、楽しみながら発想を広げることもできます。直島の子ども達は活発にディスカッションをしながら一つの物語にまとめていきました。
子ども達による物語は、作品がこの美術館に置かれるまでの歴史を紐解いたもの、未来の世界を描いたもの、作品の中で繰り広げられる出来事を表現したもの、作品だけでなく空間の印象からインスピレーションを得たものなど、グループの個性が発揮された内容でした。李禹煥のシンプルな作品が、子どもたちの創造力を豊かに引き出したといえます。
現代アートの楽しみ方
直島の現代アートは、作品を通じて景観の固有性を引き出し、その場所に脈々と続く文化や人々の記憶を表現することで、鑑賞者に新しい発見を得るきっかけを与えています。作品空間に身を置いて自分なりの視点や考えを持つことは、自己を知りアイデンティティを形成する上で重要な経験となります。現代アートを鑑賞するときは、色々な角度からじっくり観察したり、五感を使って空間を意識したりしながら、自分がどんなことを思うのかを楽しみながら作品と向き合う時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。特に子供たちはいろんなものを見つける力があるので、時間をかけてたくさんの発見、疑問、想像を引き出せるように一緒に取り組んでみてください。大人でも子どもでも、一緒に鑑賞している人がいるときは言葉にしあうことで、お互いの解釈の違いも味わうことができます。
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