誰一人取り残すことのない学びとは

中央教育審議会などの会議で、「誰一人取り残さない」という言葉を聞くことが多くなりました。学校教育のあるべき姿として掲げられるこの言葉に、どのようなルーツがあるのでしょうか。

国連のアジェンダで宣言

「誰一人取り残さない」(no one will be left behind)は、2015年に国連で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中に、宣言として明記されています。誰一人取り残さないために、SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)が「すべての国、すべての人々、および社会のすべての部分で満たされること、そしてすべての国とステークホルダーは、最も遅れているところに第一に手を伸ばすべく努力する」とあります。 

学校教育は、誰一人取り残さない世界を実現するための、重要なファクターです。アジェンダが公表された2015年から、既に5年。この間、子どもたちの資質・能力を伸ばす観点から学習指導要領の改訂が行われ、2020年度から小学校で全面実施がスタートしています。
現在、中央教育審議会は「新しい時代の初等中等教育の在り方」について議論を進めています。諮問した柴山昌彦文部科学相(当時)は、いじめの重大事態や児童虐待などの増加、障害のある児童生徒、不登校や外国人児童生徒などの増加に伴い、「誰一人置き去りにしない教育の実現」を求めました。
これを受けて2019年12月に中央教育審議会が公表した「論点取りまとめ」では、20年代を通じて実現を目指すイメージを「多様な子供たちを誰一人取り残すことのない、個別最適化された学び」とし、実現に向けた具体策として、ICT(情報通信技術)環境の整備や、教科担任制の実現などを盛り込んでいます。

改革に社会的弱者の視点を

1人1台のコンピューターやネットワークの整備の充実は、自治体間の格差が大きいことから、その是正も含め重要だとの認識が一般に広まってきましたが、諮問当初の「誰一人置き去りにしない教育を実現する」という文脈も、忘れてはならないでしょう。
たとえば、日本語指導を必要とする児童生徒は、2018年度に5万人を超えています。また、日本に住む外国籍の子どものうち、約2万人が就学していない可能性があることも明らかになっており、対策が急がれます。

発達障害などがある子どもが、通常の学級に在籍しながら、障害の状態に応じて指導を受ける「通級」についても、担当する教員向けのガイドブックがこのほど出来上がったばかりで、普及はこれからです。
新型コロナウイルス感染症拡大を防止するための一斉休校や、市民の外出自粛要請が出されるなか、中教審の審議や学校の教育活動にも、大きな影響が及んでいます。こうした環境下で最も影響を受けやすいのは、弱い立場に置かれた人々や、子どもたちです。
SDGsは2030年を完全実施のゴールとしています。「誰一人取り残さない」というキーワードを忘れない議論や取り組みが、達成の近道となるのではないでしょうか。

(筆者:長尾康子)

※外務省 「持続可能な開発のための2030アジェンダ」を採択する国連サミット
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/gic/page3_001387.html
または、
※外務省 わかる!国際情勢 Vol.134 “誰一人取り残さない”世界の実現-「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の採択
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol134/index.html

※文科省 新しい時代の初等中等教育の在り方 論点取りまとめ
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1382996_00003.htm

プロフィール


長尾康子

東京生まれ。1995年中央大学文学研究科修了。大手学習塾で保育雑誌の編集者、教育専門紙「日本教育新聞」記者を経て、2001年よりフリー。教育系サイト、教師用雑誌を中心にした記事執筆、書籍編集を手がける。

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