今年度から始まる「学校支援地域本部」って何?

文部科学省は2008(平成20)年度から、「学校支援地域本部」事業をスタートさせます。「学校支援地域本部」とは、保護者・地域住民・各種の専門家などが、学校支援ボランティアとして学校を支えるものです。同省は、全国の中学校区ごとに地域が学校を支える体制をつくることにしており、まずは全市町村(1,800カ所)に「学校支援地域本部」を設置し、学校支援のモデルとなるような事業を展開してもらうことにしています。

文科省によると、造園や電気といった専門家などに学校内の環境整備を、地域の退職教員などに少人数指導や習熟度別指導などの講師を、保護者や地域住民などに登下校時の安全指導を、といったように、学校のさまざまな仕事に協力してもらうことが想定されています。地域や保護者の力を組織化し、学校を支えることをとおして地域の教育力を再構築するとともに、教員の負担を軽減して子どもと向き合う時間を増やす、という、いわば一石二鳥をねらった施策です。教員もこれから団塊の世代や第2次ベビーブーム時に大量採用された世代が一斉退職の時期を迎えますので、大量に出現する退職教員の活用も加えれば、「一石三鳥」と言えるかもしれません。

「学校支援地域本部」の中心的存在となるのは、「地域コーディネーター」です。地域の退職教員やPTA役員経験者など、地域の実情に詳しい人間を充てることになっています。コーディネーターが学校からの要請を受け、地域の人材から適切な人を選んで学校に派遣する、というのが、基本的な仕組みです。これによって、学校だけでは限界がある地域のさまざまな人材の掘り起こしと、その組織化ができるようになる、というわけです。

一見すると良いことずくめの計画ですが、学校支援ボランティアを受け入れる立場の教員には、反対意見も少なくありません。学校外の人間が入ってくると、やってもらう仕事の調整や監督などで、かえって教員の負担が増えるのではないか、というのがその理由です。一方、地域の中で必要な学校支援ボランティアの数が確保できるのか、という不安も残ります。
しかし、学校の仕事は教員だけでするという考え方は、もはや時代遅れではないでしょうか。また、PTA組織だけでなく地域全体で学校を支える、ということになれば、保護者の負担も減るはずです。
体制がそろったとしても、もう一つ、心配なことがあります。学校支援ボランティアが、単なる学校の「下請け」組織になってしまうのではないか、ということです。地域・保護者が学校を支えるということは、教員と保護者、そして地域住民が、いずれも子どもたちを教育する「当事者」として、対等の立場に立って初めて実現することです。そうした対等な協力関係をどうつくるのかが、「学校支援地域本部」が成功するかどうかのカギとなるのではないでしょうか。

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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