国際学力調査から何を「読解」する?
2015(平成27)年に行われた二つの代表的な国際学力調査、「国際数学・理科教育動向調査」(TIMSS<ティムズ>)と「生徒の学習到達度調査」(PISA<ピザ>)の結果が、相次いで発表されました。読解力が落ちたと話題になりましたが、調査と結果を「読解」してみましょう。
理数系は確かに向上
TIMSSは国際教育到達度評価学会(IEA)が実施する調査で、1964(昭和39)年に始まり、95(平成7)年からは4年ごとに行われています。学校で学んだ知識・技能が、どれだけ習得されているかを中心に測定するものです。これに対して、経済協力開発機構(OECD)が実施するPISAは、2000(平成12)年から3年ごとに行われています。学んだ知識・技能を、実生活のさまざまな課題に、どの程度活用できるかを評価するものです。
これらの調査は「国際学力テスト」と呼ばれることもあり、つい国別順位や点数が気になります。ただ、順位はその年の参加国によっても違ってきますし、1点2点の違いは誤差の範囲内でしかなく、順位の高下や点数差が「統計的に有意」かどうかで判断しなければなりません。特にPISAは、OECD加盟国以外に参加する国や地域が増加傾向にありますから、見かけの順位に一喜一憂するのは無意味です。
そうした観点から見ると、TIMSSは前回と比べ、小学4年生、中学2年生とも算数・数学、理科のいずれも平均得点が前回に比べ有意に上昇。一方、高校1年生が受けるPISAは、主要3分野のうち、数学的リテラシー(活用能力)が得点532点(前回536点)で統計的有意差はなく、順位はOECD加盟国中1位(同2~3位の間)、参加国全体で5~6位の間(同6~9位の間)、科学的リテラシーがやはり統計的有意差のない538点(同547点)で、各1~2位の間(同1~3位の間)、2~3位の間(同3~6位の間)だといいますから、理数系については、まずまず良好な結果といえそうです。
読解力の低下は<慣れ>だけか
一方、PISAの読解力は516点(前回538点)で、統計的にも有意に下がりました。順位も加盟国中3~8位の間(同1~2位の間)、参加国中5~10位の間(同2~5位の間)となっています。
読解力の結果について、文部科学省では、二つの理由を挙げています。一つは、前回までの紙による筆記型調査が、今回からコンピューターを使った調査に移行したため、戸惑いがあったのではないか、ということです。しかし、それは数学や科学も同じですし、他の参加国も条件は一緒です。
そもそもコンピューター使用型への全面移行は、ICT(情報通信技術)が切り離せない現代社会での「活用」力を見るためです。インターネットを含めた膨大な情報から必要な情報を取り出して、体験や別の知識とも比較して解釈し、課題解決や判断に生かす力が求められます。
もう一つの理由は、スマートフォン(スマホ)の普及などでインターネットの利用時間が増える一方、読書や新聞を読む機会が減って、教科書以外に論理的な長文を読むことが少なくなった、というものです。むしろ、こちらの方が深刻な問題かもしれません。
現行の学習指導要領では、全教科・領域等で「言語活動」を行うことになっていますが、小6(2011<平成23>年度)の時から現行課程に移行した昨年度の高1に、その効果はまだ表れていないのか、あるいは中学校での言語活動が不十分だったのか。結果から根拠に基づく課題を読み取り、有効な解決のための教育政策を考えることこそが重要です。
※OECD生徒の学習到達度調査(PISA)
http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html#PISA2015
※国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の調査結果
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku-chousa/sonota/detail/1344312.htm
(筆者:渡辺敦司)