全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の保護者調査は何のため? 経済力や家庭生活も聞く

文部科学省は5月、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の一環として、一部の小中学校を対象とした保護者アンケート調査を実施しました。子どもの家庭での状況や、保護者の考え方はもとより、経済力や教育費まで尋ねています。なぜ、こんな調査が必要なのでしょうか。

国の教育政策に生かすため、匿名で

保護者調査は、全国から無作為に抽出された小学校1,186校、中学校799校を対象に実施されました。放課後や土曜日の子どもの様子、保護者の教育方針、子どもが通う学校の教育に対する考え方の他、両親の仕事や帰宅時間、年収や学歴などを、匿名式のアンケートで、立ち入って聞いています。

全国学力テストの本調査が、個々の学校の指導改善や、児童生徒一人ひとりの学習改善に生かすものであるのに対して、保護者調査は、具体的な学校や子どもの話ではなく、家庭状況と学力の関係を分析して、国の教育政策に役立てるためのものです。

実は2013(平成25)年度にも、抽出で保護者調査と、その追加分析調査が行われたことがあります。有効回答778校という今回より規模が小さい調査でしたが、その際、年収が高いほど子どもの学力も高くなるなど、家庭の社会経済的背景と学力の密接な関係が浮かび上がってきました。子どもの学力を向上させるためには、家庭の状況も考慮しなければならないことが改めて浮き彫りになったのです。

一方、調査からは、不利な状況に置かれた家庭を多く抱える地域の学校でも、そうした状況を克服し、想定される以上の効果を上げている学校の存在も明らかになりました。保護者調査は、さまざまな側面で新たな知見を提供してくれるものと言えそうです。

財政面の裏付けも含めて

2006(平成18)年に改正された教育基本法では、保護者が子どもの教育に第一義的責任を持つことが明記されました。かといって、家庭の責任を重くすれば、子どもの学力が上げられるわけではありません。そうでなくても保護者の多くは、生活を維持するのに精いっぱいです。本当はもっと子どもに手を掛けてあげたいのだけれど、なかなか理想どおりに行かないというのが、少なからぬ現実ではないでしょうか。学校との連携を促進することはもとより、個々の努力に任せるだけではない、家庭教育への具体的な支援が急務です。

国はもとより、家庭にとって身近な存在である、地方自治体による政策も欠かせません。単に平均学力の低い学校の尻をたたくのではなく、むしろ不利な状況にある学校への支援を手厚くし、「効果のある学校」(エフェクティブ・スクール)を増やすことによって、一人ひとりの子どもの学力向上はもとより、地域社会や国全体を豊かにすることにつながるのです。全国学力テストは本来、そうした具体的な教育政策を行政側に考えてもらうことも、主要な目的の一つだったはずです。

今回の本格的な保護者調査により、そうした教育政策の検討に一層の弾みがつくことが期待されます。文科省は今後も定期的に保護者調査を実施したい考えですから、国としても、財政面の裏付けも含めて、抜本的な学校・家庭支援策を打ち出すことが望まれます。

※全国学力・学習状況調査 保護者に関する調査について(国立教育政策研究所ホームページ)
http://www.nier.go.jp/17chousakekkahoukoku/kannren_chousa/hogosya_chousa.html

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

子育て・教育Q&A