2014/05/12

【調査研究】 大学生の中退防止に向けて ~入学時退学意向の要因は何か

元 主席研究員・チーフコンサルタント 山下 仁司
 ゴールデンウィークが過ぎ、各大学で入学式からおよそ1カ月が経った。ある大学の調査では、学部を転部したいとか大学を辞めて他の大学に入り直したいという考えが最も起きやすいのは、1年次の入学直後の時期とわかっている。多くの大学で、中退防止は非常に重要な課題である。今回は、ベネッセが提供しているアセスメント、『大学生基礎力調査』(詳細は以下を参照http://www.benesse.co.jp/univ/assessment/)のデータ(2013年度 1~3年のパネルデータ約2万人)を使って、入学時の退学・転部意向(以下、「退学意向」と統一する)にどのような要因があるかを見てみることにしよう。

学部系統との関係

 まず、合格偏差値帯別に大きく区切った上で、学部系統別に退学意向の割合を見ることにしよう。(図1)黄色の帯が「退学意向ややあり」、ピンクが「退学意向がとてもあり」の割合を示している。概ね、合格偏差値では60以上は退学意向(やや+とても)の割合は低いが、60未満は12~22%となっており、偏差値との強い相関は見られない。学部系統との関係では、社会科学系統に課題が比較的大きい事が見て取れる。社会科学系統は、専門への興味ではなく、大学進学そのものが進学の目的の学生が比較的多いため、このような結果になっていると思われる。

大学志望度・学部志望度との関係~学部志望度の低さに注意

 次に、大学の志望度(第1志望~第3志望)、学部の志望度(同)と退学意向との関係を見てみよう。図2は、合格偏差値帯別に、大学・学部の志望度と退学意向との関係を示したものである。各枠ごとに合格偏差値帯でまとめ、枠内は上が大学の第1志望、下が第2志望となっている。帯グラフの中は、上から学部が第1志望~第3志望までを示している。上に見たように学部系統の効果がある可能性があるため、このデータでは人文・社会科学系学部に絞っている。
 それぞれの帯グラフを見てみると、大学志望度よりも、学部志望度が低い方が、退学意向の割合が高まることがわかる。例えば、偏差値60以上の大学では大学が第1志望で学部が第2志望であった学生(退学意向合計 14.1%)の方が、大学が第2志望で学部が第1志望であった学生(同 8.9%)よりも退学意向が高い。このデータからは、学ぶ目的が明確で、学部第2志望以下など、学びたい学部ではないところに不本意に入学している場合に退学意向が強くなるという事が予想できる。

入試方式との関係~真の課題はセンター利用入試

 入試方式との関係を見てみると(図3)、各合格偏差値帯で共通しているのは、センター利用入試が最も退学意向者が多い、ということである。センター利用入試を使って入学した学生は、国公立で志望する大学に入れなかった場合が多く、不本意で転学などを考えている層が多いのであろうことが想像できる。
その次には、一般入試合格者での退学意向割合が多い。よく問題視される推薦・AO入試による合格者は、それなりの志望動機を持って入学する者が多く、どの合格偏差値帯でも意外と退学意向は低いことがわかる。推薦・AOがすべて問題なのではなく、むしろ学ぶ目的を持ちながらそれが実現しなかった場合に問題が起きやすく、それは一般入試やセンター利用入試に多いということである。
 以上を総合すると、入学時に転部や退学を考える学生には、
① 学ぶ目的が明確でない
② 学ぶ目的が明確で、学部第2志望以下など、不本意に入学している
という両極端の2種類が存在している。これらの要因を入学時に把握し、個別に手を打つ必要があると思われる。また、入試方式の見直し、大学としての学ぶ目的をしっかり伝えるコミュニケーションを強化するなどの方策を取るべきである。
 最後に、これらの結果から、最近増加している「ウエブ出願」について注意を促したい。ウエブ出願の「売り」は、同一大学の複数学部併願に対して割引などの優遇がある事である。しかし、これまで見てきたように、大学が第1志望でも学部で学びたいことが実現できなければ退学につながりやすくなることが予想される。ウエブ出願の流れはとどめようがないが、だからこそ今後はどのような意識で入学しているか、大学での学びに満足感を感じているかなど、きめ細かく見てゆくIR体制を取ることが必要である。

プロフィール

山下 仁司

元 ベネッセ教育総合研究所 主席研究員・チーフコンサルタント
福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、進研模試副編集長、ニューライフゼミ英語教材編集長、ベルリッツ・アイルランド、シンガポール出向、国際教育事業部長、ベルリッツ・ジャパン取締役、英語力測定テストGTEC開発統括マネージャーなどを経て現職。

◆近年の活動◆
大学FD・SD研修講演
広島大学、宮崎大学、名古屋工業大学、福岡工業大学、名城大学他多数

◆シンポジウム◆
・全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 公開討論会パネル
 (平成22年、25年)
・九州工業大学シンポジウム
「大学教育のあり方と秋入学-世界で活躍できる人材を育てるために-」
 (平成25年)
・ベネッセ教育総合研究所シンポジウム
「主体的な学びへと導く大学教育とは」(平成24年)

◆論文◆
・「高校・生徒からみた高大接続の課題と展望~高大接続の真の課題は何か~」
 (2011)
・日本高等教育学会 学会紀要『高等教育研究』第14集 高大接続の現在
・『「答え」や「モデル」のない今後のグローバル社会で活躍できる力とは?
 産学連携教育の研究実践と、主体性を引き出す大学教育の在り方』(2012)
・第4回横断型基幹科学技術研究団体連合シンポジウム 予稿集