国立大学「文系学部廃止」の真相は?‐渡辺敦司‐

文部科学省が今年6月に出した通知(外部のPDFにリンク)で、国立大学に人文社会科学系学部の「廃止」を求めた……。そんな「誤解」が、いまだにくすぶっています。文科省は火消し(外部のPDFにリンク)に躍起ですが、日本学術会議や経団連が相次いで声明を出すなど、依然「反論」の動きがあることも、これまでの記事で紹介してきました。そうしたなかで学術会議は、大学改革について、一般の人々も含めて自由に意見を交わして合意するための議論の場を設置するよう、新たな声明(外部のPDFにリンク)を出した他、国立17大学の人文系学部長会議が文科省に抗議声明を提出したところです。前向きな議論を行うためにも、まずは通知の真意は何だったのか、なぜ誤解を生んでしまったのか、その「真相」を整理することから始めましょう。

問題となったのは、通知文のうち「教員養成系学部・大学院、人文社会科学系学部・大学院については、18歳人口の減少や人材需要、教育研究水準の確保、国立大学としての役割等を踏まえた組織見直し計画を策定し、組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努めることとする」としたくだりです。これについて文科省は、「廃止」とは教員養成系でも教員免許の取得を目的としない「ゼロ免課程」の定員に限り、教員養成課程や教職大学院に振り替えることを求めたものであり、人文社会科学系にはかかっていないと説明しています。
しかし、この一文だけを取り出して普通に読めば、文系学部や大学院全体を廃止したり転換したりすることを求めたように受け止められても仕方ないでしょう。もとは高校の国語科教員だった馳浩文部科学相も、10月に就任した直後の会見で「通知の文章は、国語力の問題だ。私なら32点ぐらいしかつけられない」と評しました。

そんな文章が、なぜとおってしまったのでしょうか。通知は各国立大学の学長あてに出されたもので、各大学では、6年ごとに定める「中期目標・中期計画」の第3期策定に向けて、各大学の「ミッション(使命)の再定義」を、文科省と話し合ってきました。その結果の一端が、国立大学のタイプ分けと、それに基づいた学部再編として既に表れています。しかし、こうした文科省と各国立大学との折衝は、学長の強力なリーダーシップの下で大学改革を進めようとする「ガバナンス改革」の下、主に大学執行部が対応に当たってきました。そのため通知でも、これまで折衝を続けてきた直接の当事者である執行部に通じればよい、という意識が働いてしまったものと見られます。

一方でガバナンス改革は、それまで伝統的だった「教授会自治」を抑えることと表裏一体です。大学内でも改革から疎外されて不満を抱いていた一般の教職員にとっては、通知文で言わんとすること自体が寝耳に水の話であり、ましてや「32点」の文章であれば、誤解が広がったとしても無理はありません。

ただ、たとえ国立大学であっても、国全体や地域の中で、その在り方が改めて問われていることは確かです。「誤解」は誤解として、現代における国立大学の役割とは何なのか、学術会議が言うように、丁寧な国民的合意をつくる努力が不可欠でしょう。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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