高校生の「主権者教育」は次期指導要領の先取り‐渡辺敦司‐

選挙権年齢を来年6月から18歳に引き下げる公職選挙法の改正に伴い、総務省と文部科学省は共同で、高校向け「私たちが拓(ひら)く日本の未来 有権者として求められる力を身に付けるために」(生徒用副教材、教師用指導資料)を作成し、国公私立の生徒と高校に配布しました。来夏に予定される参院選に向けて、その時点で18歳の高校生が有権者となることへの緊急対応、という意味合いもあります。また、改めて学校における主権者教育を問い直すことはもとより、アクティブ・ラーニング(課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び、AL)をはじめとした次期学習指導要領(高校は2022<平成34>年度入学生=現在の小学3年生から全面実施の見通し)の学習を先取りするものでもあります。

生徒用副教材を見ると、選挙の実際や政治の仕組みを説明するだけでなく、話し合いや討論の手法、模擬選挙、模擬請願、模擬議会など、具体的な学習の実践例を示しています。これは、有権者として政治の仕組みや原理について知ることはもちろん、「課題を多面的・多角的に考え、自分なりの考えを作っていく力」や「自分の考えを主張し説得する力」を育成しようとしてのことです。
そして、こうした力の育成は、「何を知っているか」だけでなく「何ができるようになるか」、さらには「知っていること・できることをどう使うか」「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」の育成を目指す、次期学習指導要領の考え方(外部のPDFにリンク)と一致します。実際、副教材では、ALとして、(1)正解が一つに定まらない問いに取り組む学び (2)学習したことを利用して解決策を考える学び(3)他者との対話や議論により、考えを深めていく学び……に取り組むことを期待しています。

学校教育で子どもを将来の主権者として育てることは、従来も行われてきたはずです。教育基本法は「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質」の育成を教育の目的の一つに掲げていますし(第1条)、「良識ある公民として必要な政治的教養」の尊重も求めています(第14条)。それに基づいた指導要領でも、「平和で民主的な国家・社会の有為な形成者として必要な公民としての資質を養う」(高校公民科の目標)などとされているところです。

しかし若者の投票率の低さなど、これまでは高校までの学習が、実際の投票行動に結び付いていなかったのは明らかです。一方で少子高齢化をはじめとして、社会の在り方を有権者が考え、選択しなければならない課題は山積しています。18歳選挙権を別にしても、高校生のうちから政治参加について考えることは急務であるといえるでしょう。

次期指導要領をめぐっては、高校で新科目「公共」(外部のPDFにリンク)の創設も検討されています。今回の主権者教育は、その先取りでもあります。「当面、受験には関係ない」などと消極的に受け止めるのではなく、今後の大学入学者選抜(外部のPDFにリンク)でもますます重視される思考力・判断力・表現力を鍛える場としても、積極的に捉えたいものです。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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