正論では響かない子どもの心を動かす対応とは?[やる気を引き出すコーチング]

「この前、うちの子がテストを放棄したって、学校から呼び出されたんです」と、中2男子A君のお母さんから相談がありました。A君は、テストの時間に出席はしたものの、名前だけ書いて白紙で提出したらしいのです。親からも厳重注意をするようにとのことで、帰宅後、A君と話したそうですが、その後、ますます勉強にやる気をなくしてしまったというのです。
「『そんなことをしても何の得にもならないよ』って注意したんですけど、もう何もしゃべらないんです。どうしていいのかわかりません」とA君のお母さん。



正論は子どもの心を閉ざす

私はコーチ業なものですから、このお話を聴いた時も、最初にお母さんに質問をしました。

「A君は、どんな気持ちで白紙のまま出したのでしょうね?」
「そんなことわかりませんよ。いったいどういうつもりなんだか」
「そうですよね。まず、A君に聴いてみないとわからないですよね」

賢明なお母さんは、ここで「はっ!」と何かを感じられたようです。

学校では折々にテストがあることをA君は当然知っています。テストではベストを尽くして解答しなくてはならないことも、A君はよくわかっているはずです。これまで、テストには何かしら解答を書いていたA君が、今回に限って、白紙のまま提出したことには、何かよほどの理由があったのではないでしょうか。そこを聴かないで、「テストを放棄するとは何事か? おまえは間違っている。まじめに取り組むべきだ」というような正論を一方的に言われても、ますます心を閉ざすだけです。



気持ちを理解しようとする姿勢を示す

先ほど、「コーチ業なもので」と言いましたが、正直に言うと、私は高校生のころ、A君とまったく同じことをした経験があるのです。なぜそんなことをしたのかというと、実にくだらない話ですが、思春期特有の人間関係の悩みから、すべてに嫌気がさし、自暴自棄になったからです。今、思い返すと、一時の悩みに過ぎないのですが、当時の私にとっては、人生の重大事でした。

その時の担任の先生の対応を、今でも時折思い出します。親への報告や呼び出しは一切ありませんでした。1対1で話す時間をつくってくれました。「叱られるだろうな」と思っていたところ、先生は意外にも穏やかに聴いてくれました。「何かあったのか? 何でも聴くから、理由を教えてほしい」。多少面食らいましたが、ほとんどやけくそで本当の気持ちを伝えました。

「今、私が悩んでいることに比べたら、こんなテストなんて何の意味もないと思いました」というようなことを言いました。「ああ! なんて子どもだったんだ」と、今では赤面してしまいます。先生は口をはさまず、最後まで聴いてくれました。聴き終わったあとで、こうおっしゃいました。

「話してくれてありがとう。気持ちはわかった。こんなテストの1回や2回、お前だったら、これから先、いくらでも取り返せる」。その言葉を聴いた瞬間、「私はなんて無礼なことをしてしまったのだろう」と深く反省する気持ちがわいてきました。不思議なものです。注意や叱責には反発したくなるのに、「受けとってもらえた。わかってもらえた」と感じた瞬間、「先生、ごめんなさい。次はまじめにがんばります」という気持ちになれたのです。



子どもの心に寄り添う

こんな高校生だった私が、今では、高校生のコーチングをしながら、改めて、こう感じています。

子どものどんな言動にも、子どもなりの想いや背景があります。表面に見えているものだけをとりあげて、正論を言い聞かせることにほとんど効果はありません。そうせざるを得なかった相手の気持ちをこちらが理解しようとした時に、子どもは心を開きます。もちろん、「やってはいけないことはやってはいけない」と言う必要はありますが、子どもを説得しようとしてはいけません。子どもの心に寄り添う姿勢で、気持ちを受けとめると、子どもはおのずと理解するようになるのです。

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<つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み>

プロフィール

石川尚子

石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。近著『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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