懸念される海外子女教育の環境悪化

グローバル化の進展により企業の海外進出が進むにつれて、海外勤務者にとって子どもの教育は、大きな悩みの種となっています。総務省の実態調査によると、日本人学校や補習授業校で、教員不足などが深刻化していることがわかりました。

保護者の海外勤務などに伴って、小中学校段階の海外子女数は、2014(平成26)年度に7万6,536人となり、05(同17)年度と比べると約4割も増えています。教育機関別に見ると、現地の学校やインターナショナルスクールなど「現地校等」が47.7%、「日本人学校」が27.5%、「補習授業校」が24.8%でした。

日本人学校は、現地の日本人会などが設置した学校で、原則として国内と同じ教育が行われています。補習授業校は、現地校等に通う子どもを対象に、放課後や土曜日などに算数・数学、国語など一部の教科を日本語で授業する学校です。国は、日本人学校に教員を派遣し、補習授業校には現地採用講師の謝金や施設の賃貸料などの一部を補助しています。
ところが、実態調査によると、日本人学校の児童生徒数は2005(平成17)年度と比べ約2割も増加している一方、派遣教員数は逆に約1割減少していることがわかりました。原因は、派遣教員を文部科学省に推薦する都道府県等の教育委員会が、派遣に消極的だからです。現在の教員年齢構成では派遣対象となる中堅クラスの教員自体が不足していること、教員給与に対する国の基準額が低いため、派遣教員の給与が都道府県の持ち出しになることなどが、その理由です。

これに対して、日本人学校の約8割が、教員の業務負担が重いと訴えています。また、現地の日本人会などが補習授業校の設置を申請しても、国の財政難を背景に、外務省が設置を承認しないケースが増えていることも明らかになりました。
調査結果を受けて、総務省は、派遣教員の確保方針を策定するとともに、財政負担が少なくて済む退職教員などシニア派遣教員の制度を拡充することなどを文科省に、非承認施設の解消などを外務省に、それぞれ勧告しています。

グローバル人材の育成という意味では、現地の人々に交じって現地校に通ったほうがよいので、日本人学校などは必要ないという意見も一部にあります。しかし、海外勤務者とその家族は、数年で帰国するケースが多いほか、国によっては現地校の教育水準や治安などに問題があるという事情もあるようです。
グローバル人材育成の見本ともいえる海外子女の教育において、現地での多様な経験と、日本国内と同様の教育水準の維持という課題をどう両立させるかが、大きな課題といえます。総務省は、日本人学校でどの程度まで国内準拠の教育を行うか、どのようなグローバル人材育成教育をするのか、などの目標を策定することも勧告しました。

今後、ますます海外勤務者は増えることでしょう。その際、子どもの教育に対して多様な選択が可能になるような整備・充実が求められます。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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