「ドイツでは小学生もデモをする」。国連でスピーチをした環境活動家・谷口たかひささんに聞く気候変動の話
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「気候変動に“無関心”でいられる人はいても、“無関係”でいられる人はもういません」
谷口たかひささんが2021年国連総会のスピーチで語った言葉です。
ドイツで環境保護活動を開始し、日本では700回を超えるお話会を開催。子どもたちも2時間飽きることなく耳を傾けるという谷口さんにお話を聞きました。気候変動、どうすればいいですか?
猛暑日が増えるだけじゃない、地球温暖化による影響
──子どもたちが「脱炭素」「気候変動」を調べ学習のテーマにすることも増え、「子どもに聞かれても答えられない」という保護者の声も聞きます。実際のところ、地球環境はどんな状況にあるのでしょうか。
谷口たかひさ(以下谷口):2021年8月に発表された「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告書」では「地球温暖化は現在も進んでいて、原因には人間の活動の影響がある」と明言されています。
──猛暑日も増えていますよね。このペースで地球温暖化が進むとどうなりますか?
谷口:森林火災や巨大台風など災害の増加や、海面上昇や感染症の拡大といった多くの影響があります。そして地球温暖化はただ「人が暮らしにくくなる」だけでなく「国防の問題」につながると考えられています。
──どういうことでしょう。
谷口:アメリカのオバマ元大統領は2015年に「気候変動は国家安全保障上の脅威」と発言しています。世界の人口の2/3は沿岸部に住んでいるといわれ、海から遠くない街に住んでいる人が多いですよね。でも、海面が上昇すると人が暮らせる場所が減り、食料も不足するかもしれません。限られた資源をめぐって紛争になる可能性があります。
僕がスピーチをした国連総会でも「気候変動と平和」は重要なテーマのひとつでした。日本でも2021年5月に防衛省が「防衛省気候変動タスクフォース」を設置しています。気候変動が国の安全保障に与える影響について評価・分析・対応を行うためのものですね。
気候変動によって最初に失われるのは平和だと思っています。
「地球環境に関心がない」のではなく知らないだけ
──心配です。谷口さんは世界60ヵ国を訪れているそうですね。気候変動の影響を感じることはありますか?
谷口:講演でオーストラリアを回っているとき、森林火災を目の当たりにしました。ニュースで「ハルマゲドン」と表現した人を見ましたが、実際見たら同じ気持ちに。国の軍隊を全て集めても消すのは難しいだろうと思いました。
──日本でもショッキングな映像が報道されましたね。それでも、日本で気候変動について話題になることはまだ少ない気がしています。なぜ響かないのでしょう?
谷口:響かないのではなく、知らないだけだと思います。気候変動を知ってもらうために全国でお話会をしていますが、毎回「自分たちの将来に直接関わること」として子どもたちも真剣に向き合ってくれているなと感じます。小学生自らがお話会を主催してくれることもあるんですよ。
──そうなんですね。ドイツの選挙で気候変動対策が争点になっていると聞くと、日本の選挙とは違うと感じます。
谷口:ドイツでは、海の氷がとけて人や動物が困っているような表紙の雑誌が商店にたくさん並んでいますし、トップニュースは気候変動です。日本で連日報道されている経済問題や感染症対策が気候変動になったような感じです。
ドイツの子どもたちはデモをするとほめられる?
──それだけ日常的に気候変動の話題にふれているんですね。谷口さんはドイツで環境活動をしていましたが、ドイツの子どもたちにはどんな印象がありますか?
谷口:僕が環境活動を始めたきっかけのひとつは、街中でデモをしていたドイツの子どもたちに会ったことなんですね。学校をサボって「私たちの未来を守ってください」とメッセージを掲げて。
──ドイツで子どもがデモをするのは普通のことですか? 学校や親に叱られないのでしょうか。
谷口:むしろ小学校でデモのやり方を習いますね。1人でデモに参加した8歳の子も、めちゃくちゃほめられていました。
僕はイギリスで学生時代にデモをした時に先生からほめられましたし、ドイツで1人でプラカード持って立っていた時も、通りがかりの人たちから「いいね」「すごいね」とたくさん声をかけてもらいました。
──日本の小学校でも「自分の考えを表現する力の育成」は進められていますが、周りと違う意見を主張するのは難しいことです。ドイツの子どもたちが自分の意見を発信できるのはなぜでしょう。
谷口:文化と教育、両方の影響があると思います。日本は同調圧力が高いといわれていますが、ドイツも実は高いんですね。でも「自分1人でも反対できる人間」「勇気のある人間」を育てる教育が根づいているので、1人でも勇気をふりしぼる人が多いし、それを笑う人も少ないのではないでしょうか。
一方、主張のもとには信頼性のある情報が必要なので、メディアリテラシーについても小学生からしっかり学んでいます。日本でも「どんな発信源が比較的信頼できるのか」など、早いうちから学んでいく必要があると思います。
Photo: Animaflora PicsStock / picture alliance / Adobe Stock
まずは一人ひとりに伝えることで、大きな流れに
──主張する勇気がもてない場合でも、気候変動に対してなにかできるアクションはありますか?
谷口:できることはたくさんありますが、ひとつだけ選べと言われたら「投票に行くこと」と答えています。政策や税金の配分は、たくさん投票に行く層に向けられます。気候変動だけでなく社会保障の充実のためにも、ぜひ使ってほしい権利です。
──「たった一人の力ではなにも変わらない」とは思いませんか?
谷口:企業でも政府でも国でも、構成単位は人間で、一人ひとりの集合体です。だからこそ一人ひとりに伝えられるお話会をしています。
僕に聞いたことで「初めて投票に行った」人もたくさん知っています。今は個人がメディアになれる時代、影響を受けた人がまたインフルエンサーになって、周りの人を変えていけたらいいですよね。
おしゃれでかわいい布マスクがたくさん見つかるのも日本だけですし、マイバッグもすぐに広まりましたよね。周りの影響を受けやすい文化には良い面もあって、変わるときは一気に変われます。今後、気候変動に関して日本が世界でトップになることもあるんじゃないかなと、期待しています。
まとめ & 実践 TIPS
気温上昇のニュースを聞いたり「数十年に一度」の大雨が降ったりするたび、多くの人が不安を感じる気候変動。でも、天候が安定すると「よくわからないから」「誰かがどうにかしてくれる」と考えることを後回しにしてしまうかもしれません。
大人にとっても子どもにとっても、日頃からさまざまなデータを調べ自分なりに考えていくことが大切ではないでしょうか。
編集/磯本美穂 執筆/樋口かおる
IPCC
https://www.ipcc.ch/
防衛省気候変動タスクフォース
https://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/kikouhendou/index.html
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