所変われば育て方も変わる? 発見! 世界の子育て 学校とのかかわり方(2)~英米の事例から

楽しいことも、悩みや気がかりも多い「子育て」「教育」。このコーナーでは、日本とはちょっと違う、ほかの国の子育て事情をご紹介します。さまざまな方法や考え方を知ることで、子育てに対しての気持ちが少し楽になったり、自分に合った方法にアレンジしたり……。
日本の、そしてご自身の子育て・教育を見つめ直してみませんか。



もう20年以上も前の話になりますが、私はアメリカ西海岸の都市にホームステイしました。そのお宅には10歳になる男の子がいたのですが、そのお母さんが学校に面談に出かけたことがありました。帰ってきたお母さんが「ふー」とため息をついています。「どうしたの?」と声をかけたら、「今日の面談で、来月から子どもの性教育を行う予定だけど、お宅のお子さんに教えてよいか決めてほしいと言われたのよね。どうしようかしら」とのこと。日本なら、学校の授業で教えることを、いちいち各家庭に許可を求めたりしないのでビックリしていると、「やっぱり、うちの子はのんびり屋さんだから、まだ先にしてもらおうかしら」とのこと。「親が反対したら、そのおうちの子どもには教えないとか、日本ではありえないなあ」と、またまた驚いたものでした。

アメリカといっても広くて大きな国ですし、日本のように全国ほぼ同じ教育内容ではないので、あくまでも私の体験の中での話ですが、学校教育の内容まで保護者が決定権を持っていることに驚きました。選べるということは素晴らしいことだと思いますが、反面、それだけ保護者や家庭の責任も迷いも大きいということ。学校教育への考え方の違い、保護者としての学校へのかかわり方の違いを強く感じた出来事でした。

同じような経験をしたロンドンの友人からも話を聞きました。友人のお子さんは、ロンドンの私立小学校の高学年。ある日、学校から電話があり、「近々、歴史の授業で第2次世界大戦を教えるが、お宅のお子さんにも教えてよいか」と聞かれたそうです。なぜ、そのようなことを聞かれるのかわからなかったため教師に尋ねてみると「日本は敗戦国なので、日本人の子どもには聞いていてつらい内容が授業の中には含まれている。家庭の方針としてどう考えるか判断してもらいたい」と。なかなかシビアな判断を親に求めるんだなと思いましたが、学校では圧倒的なマイノリティーである日本人の子どもへの配慮と考えれば、さすが多民族が暮らす街の学校だなと感心もしました。

そういえば、我が家がイギリスにいたころ、娘は日本人向けの学校に通っていたのですが、学校運営自体はイギリス流だったので、学校のさまざまな教育活動や規則について「保護者がそれを選んだ、認めた」という手続きがあったように思います。その分、学校が何を教えるのか、どこまで責任を持ってくれるのか、敏感にならざるを得ない部分がありました。アメリカやイギリスなど欧米の文化は個人の選択や責任で決めることが日本より多く、教育についてもそれは同じだと感じます。これに対して、日本では教育は国や学校によって「決められたもの」「従うもの」という意識がどこかにあって、家庭が選択する余地が少ないように思います。保護者にとっては「学校にお任せ」で楽な部分もあると思いますが、反面、保護者が学校教育の内容に疎くなりやすく、また学校教育自体も内容の柔軟性に欠けやすいというデメリットもあるように思います。アメリカやイギリスとまではいかなくても、日本でも子どもが学校で受けている教育内容について、もっと保護者が関心を持ったり、学校からの情報公開があったりしてもよいように思います。

ところで、それ以外の部分で、アメリカの保護者はどうやって学校の様子を知るのかというと、学校主催の保護者会が学期に1回程度あるようです。特に新年度初めの9月はBack To School Nightと呼ばれる保護者会・面談があり、ほとんどの保護者が出席するとか。「ほとんどの家庭」ではなく「ほとんどの保護者」というところがミソで、アメリカは日本よりも離婚家庭が多いのですが、離婚していてもこの時は父親と母親両方がそろって出席する場合が多いそうです。子どもの教育は両方の責任ですもんね。

また、「Night」という言葉でもわかるように、保護者会は基本的に夕方から夜、アメリカの友人の話では18:30くらいから開かれるとのこと。これなら、仕事を持つ保護者、特に日本では保護者会への参加が少ない父親も参加しやすいですね。イギリスもアメリカ同様、保護者会やPTAのイベントなど、保護者が参加する場は夕方以降というのが普通だそうで、保護者会を「Parents" Evening」と呼ぶ学校が多いようです。日本の保護者会は平日昼ということが多く、私も共働きでの子育てだったので、予定のやりくりに苦労しました。日本も共働きや一人親の家庭が増えてきていることを考えると、そろそろ無理のない方法、父親も参加しやすいような方法を工夫すべき時期になってきているのではないかと感じます。


プロフィール



大学卒業後、約25年間、(株)ベネッセコーポレーションに勤務。ベネッセ教育研究開発センター(現・ベネッセ教育総合研究所)で子育て・教育に関する調査研究等を担当し、2012(平成24)年12月退職。現在は夫、娘と3人でロンドン在住。

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