「あなたが大切」それを伝えるには、ごはんがいちばんわかりやすい

「子どもが目の前で笑ったり、泣いたりする奇跡をどうか当たり前だと思わないで」。その感動的な講演を聞きたいと、全国からの申し込みが殺到する助産師・内田美智子さん。今回は助産師の仕事を通して見えてきた、家庭での「食」の大切さについてお話しいただきました。 ※2015年10月現在(取材・文/長谷川美子)

生きていくうえで大切な自己肯定感と食の関係

助産師である先生が、食をテーマにした講演をするようになったきっかけは何ですか?

もう10年以上、この病院にトラブルを抱えてやってくる中高生に関わっていたら、食の問題にぶつかったからです。

思春期の子たちの相談にのっていると、「生まれてこなければよかった」「私は産んでほしいなんて親に頼んでいない」という言葉がよく出てきます。それは、自分へ向けられた親の愛情を確かめたい、という切実な気持ちの裏返しのように私には聞こえました。

そんな彼らの決まり文句は、「どうせ自分なんか…」。これは自己否定やあきらめの言葉です。「人生、大変なこともつらいこともあるけど、でもいいじゃん」と思えることは、生きていくうえで大切な自己肯定感なのに、その子たちには全くそれがありません。さらに話を聞いていくと彼らの食生活には、朝ごはんを食べていない、晩ごはんはカップラーメン、といった共通点がありました。そういう食事では、親の愛情を感じられず、丈夫な身体をつくることも、自分自身を大切にする気持ちも育たないのも当然だとつくづく思ったのです。 

子どもから見て、手づくりの食事ほど親の愛情が、目に見えてわかりやすいものはないと思います。命を支えるいちばん基本の「食」だからこそ、親からの「あなたが大切だよ」というメッセージがダイレクトに伝わるのです。

でも今の社会は、お母さんも忙しい。「子どもほど優先順位が高いものはない」と思ってはいても、実際の行動は仕事優先に見えるお母さんが多いのではないでしょうか。

仕事のあるお母さんは、朝8時までに家を出なくちゃならないとか、時間の事情がありますよね。そうした中で子どもの食事を用意するのは大変かもしれません。でもそれで、「ママは8時に出ないといけないから、朝ごはん、好きなもの食べてってね。冷蔵庫に◯と◯が入っているから」とか言われてしまったら、子どもは「別に朝ごはん食べなくてもいいし」と寂しく思ってしまうかもしれません。

そうではなく、目の前にココアが出てきて、パンがトーストしてあって、バターも塗ってあって、「好きなジャムつけて食べていってね」と言われたらどうでしょう? 子どもは、好きなジャムを選んで食べてから、あたたかい気持ちで学校に行けるのではないでしょうか。

そういう準備は、たった10分もあればできるんです。それを子どものためにやってあげている親もいますが、「忙しい」「大変」「できない」を理由にしている方もいます。 

また、今まで一度も出したことのないメニューを1品、お子さんのためにつくってあげるのがおすすめです。今はネットにいろいろなレシピが載っていて、便利ですよね。

すると、「これ何?」と子どもが聞いてきます。もし何も言わなくても、変化には気づくでしょう。それを3日ぐらい続けると、「お母さんどうしたのかな? 何か頑張ってくれているのかな」と子どもは思うはずです。

メニューをたった品変えるだけで、子どもに「お母さんは、自分のために何か時間を使ってくれている」という大事なことが伝わります。子どもにとっては、口では何と言っていても、そのことがうれしいし、自己肯定感にもつながるんです。 

ごはんをつくることで「あなたが大切」が伝わる

ある日、子どもが自分のつくる料理をなぜか食べなくなって、買ってきて食べるようになった…。それは子どもからの何らかのサインだと思います。

たいてい、ごはんを食べていない子の家には、ごはんを出していない親がいます。「うちの子、何年も朝ごはんを食べないので」と言う親に、「食べなくても毎日つくってあげてください」と私が言うと、たいてい「食べないのにつくるのは無駄じゃないですか?」と返事が返ってきます。

でもそれは違います。食べなくてもつくり続けることが大事なんです。もし子どもが食べたいなと思ったときに、ごはんがなければ、食べられません。今日食べようかな、食べないでおこうかなと迷ったときも、目の前にごはんがあったら、やっぱり食べよう、となりやすいです。だから無駄と思わずにつくり続けることが大事だと思います。たとえ最初は一方通行でつらいなあと思うときでも。 

以前、お母さん向けの講演で「食べなくてもつくり続けるんですよ」という話をしたら、「うちは食べてくれるまで3年かかりました」というお母さんがいました。

そのご家庭では、ある日娘さんが「ごはん、いらない」と言い出し、お母さんの手料理を食べず、お小遣いでコンビニの弁当を買い、それを自分の部屋で食べるようになったそうです。それでも学校には行くし、勉強もちゃんとしていました。お母さんは悲しかったけれど、その後も娘さんのごはんを毎日つくり続けることに決めました。

でも全く食べる気配がなく2年もたちました。(もうどうしようかな、つくるのをやめようかな)とお母さんが弱気になったとき、ご主人が「食べなくてもいいからつくってあげて」と励ましてくれたそうです。

すると娘さんは、買ってきた弁当を自分の部屋ではなく、リビングで食べるようになりました。それから家族のテーブルで弁当を食べるようになり、徐々に弁当とお母さんのごはんを半分ずつ食べるようになり、やがて年間つくり続けた頃には、お母さんのごはんを全部食べるようになったそうです。

勇気の出る話でした。食べてもらえないごはんを3年もつくり続けるのは、さぞかし大変でつらかっただろうと思います。その娘さんがお母さんのごはんを食べなくなったのは、何か反抗したい理由があってのことだと思います。それが何かはわかりません。でもあきらめずに3年間ごはんをつくり続けたからこそ、3年かけてお母さんの「あなたが大切」という気持ちが伝わったんだと思いました。 

「わたしをちゃんと見て」というサインはごはんの食べ方に表れています

ある程度の年齢までは、子どもの将来の道筋をつけてあげるのも親の仕事だと思います。けれど今の時代、どこか優先順位が根本的におかしくなってはいないでしょうか? 親の期待の重圧が、心身のトラブルとなって出ている思春期のお子さんを見るたび、そう思わずにはいられません。

例えば、以前、うちの病院に無月経で相談に来られた娘さんとお母さんのケース。お母さんが、「この子は半年も生理がないんです」と言いますが、その子をみたら、骨に皮がへばりついて明らかに痩せすぎなんです。お母さんは生理がないことばかり心配しているけれど、問題は摂食障害だったのです。そしてその子がごはんを食べないというのは、「お母さん、わたしこんな身体になっているんだよ」「わたしをちゃんと見て」という切実なサインでした。

その子は、高校で「もう番になれないかもしれない」という恐怖に怯えて、摂食障害になっていました。中学で番だった優秀な子たちでも、高校でトップの進学校に入って1番になれるのは、その中で一人だけです。番を取り続けなくてはならない娘さんのプレッシャーは相当なものだったのでしょう。けれど娘さんが「ママ、わたし1番じゃなくていいの?」と聞いたとき、お母さんは「いいよ」ってなかなか言いませんでした。娘さんが、もういっぱいいっぱいのサインを出していることになかなか気づかないのです。

また、子どもが摂食障害でリストカットして、思春期内科にすぐ入院しなきゃならないのに、「入院するなら学校の授業のない夏休み中がいいんですけど」と言うお母さんもいました。「お母さん、娘さんを取り戻すのが先でしょ」と私は言いました。

子どもはだれでも、できるだけ親の期待に応えたいと思うものです。その期待に自分が応えられるうちはいいんです。でも一生懸命やっても期待に応えられなくなったとき、子どもたちは、どうやって親の期待に応えていいかわからないんです。それで「ママ、わたしを見て。わたしはこんなに困っているの」「期待に応えられなくても、わたしが大切だと言って」と、言葉ではない、いろんなサインを出し始めるんです。そのことはぜひ知ってほしいです。 

ごはんをつくれることの大切さと「手づくりごはん」の意味

ごはんがつくれないお母さんはたくさんいます。私はこの病院でお母さんたちに離乳食の指導をしますが、「離乳食って特別なことじゃなくて、おかゆとお味噌汁でいいのよ」と言っても、通じないことがあります。おかゆを食べたこともない、炊いたことももちろんない、という人が増えているからです。

今の子どもたちの多くは、家で料理を手伝うよりも、勉強しなさい、と言われて育ちます。学校の家庭科の授業さえ、無駄だと考える親もいるそうです。

そうやって育った子どもが親元を離れて大学生になり、一人暮らしを始めたとき、自動的に自分の日々のごはんをつくれるようになると思いますか? そのまま料理を覚えず、結婚し、親となる人も多いのだと思います。

それでもお店に行けば、離乳食だっていろいろと売っているし、困らないのかもしれません。市販のベビーフードだけで育てるお母さんが、今は約4割いると言われています。あるいはベビーフードのかわりに、プリン、アイスクリーム、ジュース、菓子パン、ヨーグルトといった、最初からどろどろしている食品を赤ちゃんに与えて育てるお母さんたちもいます。

そういう食事で育った子どもたちの身体と心はどうなるのでしょうか。そして、親にごはんをつくってもらえなかった子が親になり、自分もまたごはんをつくってあげない親になる。その連鎖が広がる社会は、一体どうなるのでしょうか。

今の日本の社会は、経済優先の社会です。保育園を増やし、子どもが赤ちゃんのうちから男女ともたくさん働き、たくさん税金を納めることが奨励されているように思います。そんな中で私の伝えている「家庭での食の大切さ」のメッセージは、時代に逆行しているのかもしれません。でも、親からの愛情を感じられないたくさんの子どもたちを見ていると、どうしても私は、家庭での食の大切さを伝えずにはいられないのです。

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助産師内田美智子さんの「家庭での食の大切さ」のメッセージ、いかがでしたか。次回は、思春期の子どもとのコミュニケーションのヒケツ。中学生になったら急にしゃべってくれなくなった、乱暴な言葉を言うようになった…そんな心配事や悩みをもつ保護者の方へのヒントをお届けします。

プロフィール

内田美智子先生

内田美智子先生

1957年大分県竹田市生まれ。国立小倉病院附属看護助産学校助産師科卒。1988年より内田産婦人科医院に勤務。思春期保健相談士として思春期の子どもたちの悩みなどを聞く。九州思春期研究会事務局長、福岡県家庭教育アドバイザー。「生」「性」「いのち」「食」をテーマに講演活動を年に100回以上行っている。著書に『お母さんは命がけであなたを産みました』(青春出版社)、『ここ——食卓から始まる生教育』(内田美智子 佐藤剛史共著/西日本新聞社)他多数。

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