幼児期に楽しんで「学びに向かう力」育成を-渡辺敦司-

近年、「幼児期の教育」(幼稚園・保育所・認定こども園での教育と保育)の重要性に注目が集まっています。政府も幼児教育の段階的無償化に乗り出していることは、以前の記事で紹介しました。といっても知育を早期に行えばよいというものではないようです。カギを握るのは「社会情動的スキル」、易しくいえば「学びに向かう力」です。

ベネッセ教育総合研究所は3月13日、PISA(生徒の学習到達度調査)の実施で知られる経済協力開発機構(OECD)と共同でシンポジウム「子どもの未来につながる社会情動的スキルとは? それを育む環境とは?」を、東京大学の本郷キャンパスで開催しました。直前の10日に、OECDが「社会発展のためのスキル:社会情動的スキルの力」と題するリポートを発表したばかりでした。

学びに向かう力とは、無藤隆・白梅学園大学教授(学習指導要領の改訂を検討する中央教育審議会の部会長)によると「興味を持ち、集中し持続し挑戦する」力のことです。一歩引いて自分をコントロールできるような「認知スキル」と相まって、意欲を持って積極的に自分から学んだり、人と交じわったりすることで、結果的に人生でも活躍できるというのがOECDの見方です。

幼児期から青年期までの間に比較的伸ばしやすいとされており、幼児期で十分に伸ばせなくてもあとで取り返すことはできるのですが、「スキルはスキルを生む」(OECDリポート)というように、早くから社会情動的スキルを身に付けていれば、それが基盤となってほかのスキルを身に付けることができるようになり、ひいては社会で大いに活躍できるようになるというわけです。OECD教育スキル局の宮本晃司マネジャーは、山登りに例えていました。最初は誰でも登れる緩やかな道ですが、険しくなるに従って高度な登山の技術(スキル)が求められるようになってきます。必要な力を徐々に身に付けていけば、頂上に達することができ、その時には全体を見渡せるようになっている……というイメージです。

反対に、家庭での不利な環境などのため幼児期に十分な社会情動的スキルが身に付けられないと、最初は小さなギャップが後々まで影響して、社会的格差をますます広げてしまうことが心配されています。だからこそ、幼児期の教育に注目が集まっているのです。決して早期からエリートを育てようというのではなく、みんなが幸せに人生を過ごせるようにするためのものです。また、日本の保育は昔から「社会情動的な側面を重視してきた」(大豆生田啓友・玉川大学教授)というのも、有利な点だといいます。

とはいえ、家庭では、ただでさえ子育てに追われるなかで大変そうにも思えます。しかし、たとえ休日しか十分な時間が取れなくても、というより、これからの社会を生きる人にはどんな力が必要か肌身で知っている大人だからこそ、社会情動的スキルや認知スキルを育めるといいます。

ただし、「スキルを伸ばさねば、と考えてはいけません。まずは子どもと接することを楽しむことです」と、OECDの宮本晃司マネジャーは話していました。たとえ限られた時間でも親子の触れ合いを大事にして、子どもが興味を持つことを温かく見守りつつ、一緒に成長していこう……というスタンスが、ちょうどよいのかもしれません。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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