コンピューターが心をもつ!? HBPがあと8年で教えてくれるかも

 人間を構成するDNAの配列が解明されてからすでに13年。構成要素がわかったからといって、まだまだ人間を巡る謎は尽きません。コンピューターが十分に発展した今、人間を人間たらしめているものに考察のメスが入ろうとしています。


人体を制御する“コンピューター”

 それは脳。大半の部分は大脳で約80%を占め、小脳は10%にすぎません。重量約1.3kgという小さな中に、約16万kmという長さの血管を持ち、約1千億個という膨大な数の脳神経細胞・ニューロンを持つ繊細な器官です。ニューロン1個につき1千~1万個のニューロン間の接合部・シナプスがあり、脳はこれらで作られたネットワークを駆使することで、さまざまな指令を人体に与え、思考や記憶の処理を行っています。まさに心と体の動きを司るのが、このネットワークなのです。

 

 

あと8年で完成するHBP

 もし、ニューロンとシナプスのネットワークがコンピューターで再現出来たら、人間の心をよりはっきりと理解できるようになるのではないか?

 

そんな疑問に応えるプロジェクトがすでに2013年にスイスで始まっています。その名も「Human Brain Project(HBP)」。ヨーロッパと世界各地から130ヶ所の研究機関が参加し、中には日本の研究機関も名を連ねる国際プロジェクトです。HBPの最終目標は脳のコンピューターモデルをつくること。完成は2023年という10年がかりの計画です。

 

 

課題から浮き彫りになる脳のすばらしさ

 すでにマウスの脳の一部を再現した全段階のプロジェクト、「Blue Brain」は完了済みです。300万個というニューロンのネットワークを再現するために、最新のスーパーコンピューターが休みなく働いています。

 

しかし、人間の脳にはニューロンが860億個と途方も無い数が存在。これを再現するにはスーパーコンピューターが1千台も必要になる上に、発電所1つ分という膨大な電力を必要としてしまいます。そのため、コンピューターの性能向上は避けては通れない課題です。HBPではコンピューター製造会社も協力することで、完成を目指しています。プロジェクト完了時には、コンピューターの性能が今の千倍にまで高まっていることでしょう。いかに脳がすぐれた“コンピューター”であるかがよくわかります。

 

HBPの恩恵はコンピューターに留まりません。脳が再現された暁には、さまざまな精神疾患や、アルツハイマーやパーキンソン病といった脳の病気の治療法が見つけられるようになる、と期待されています。これまで個々の患者で診るしかなかった、薬の脳への作用をシュミレーションすることで、治療法の開発が飛躍的に進むのです。

 

プロジェクトが完了する8年後、私たちの世界はどうなっているのでしょう?心を持ったコンピューターが存在できるのか、とても楽しみですね。「私たちはどこから来たのか、何者なのか、どこへ行くのか」。そんな有名な問いに、コンピューターが答えてくれる日はすぐそこかもしれません。

 

 

柏井カフカ

サイエンスライター。
博士号取得後、「科学を世に広めることで、専門家に頼りきりにならない社会を作りたい」と考え、さまざまな記事を手がける。記事のジャンルは専門分野の物理のほか、最新の科学・医療トピックや、IT技術の紹介など多数。

 

 

参考:

Human Brain Project

https://www.humanbrainproject.eu/

 

 

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