大学と企業が大学1年生に授業 注目される「FSP」-渡辺敦司-
中央教育審議会が2014(平成26)年12月、高大接続改革を答申したことで、先の記事で紹介したように、大学教育の改革が改めてクローズアップされています。単に学部に応じた専門分野を学ぶだけでなく、授業をとおして、社会に出てから必要とされるコミュニケーション能力や課題発見・解決能力、論理的思考力なども身に付ける「アクティブ・ラーニング」への転換です。アクティブ・ラーニング(課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習)は小・中・高校などの学習指導要領を全面改訂する諮問でも導入が提言されたところですが、もともとは大学教育の用語(能動的学修)であることも以前の記事で紹介しました。そんな大学のアクティブ・ラーニングの一つの手法として近年、大学関係者などから注目されているのが「フューチャー・スキルズ・プロジェクト」と呼ばれる、大学と企業が連携した講座(FSP講座)です。
FSP講座は、有志の大学と企業で構成する「Future Skills Project研究会」(FSP研究会、事務局・ベネッセコーポレーション)が実践しているものです。2010(平成22)年7月に5大学6企業が集まってスタートし、現在は約20大学40企業に拡大。2014(平成26)年4月には一般社団法人化しました。FSP講座は大学1年生の前期に、企業が新入社員研修で課すような実践的なテーマに5~7人のグループで取り組み、自分たちなりの提案を行うものです。
テーマは「人口減少や超高齢化で、今後縮小する国内市場で、成長拡大を実現するために必要なコーポレートコミュニケーションの1つである個人株主を増やす施策を提案せよ」(エバラ食品)、「現在の時間帯別商品売上の現状を分析し、新たな売上機会の創出、または、現状の売上機会損失改善につながる効果的な企画を立案せよ」(オリエンタルランド)といったような、上級生でさえ難渋するような課題です。それを、高校を卒業したばかりの新入生にいきなり課すというところが実はミソだといいます。
原則として全14回の講座のうち2企業のテーマに取り組むのですが、最初は当然、指導役の企業担当者からはけんもほろろの講評を受けることになります。2回目のテーマになればかなりの成長を見せるといいますが、それでも自分にどういった知識や能力が足りないのかを痛感することになります。そして、そうした体験が1年後期以降の意識変革につながり、卒業まで高い学習意欲が続くというのです。そうした成果の一端が、2014(平成26)年11月に開催されたシンポジウムで、卒業を迎えた第1期講座受講生から語られました。
大学ではインターンシップ(就業体験)が流行ですが、肝心なのは体験をとおしてどういった能力を身に付けたかです。就職に有利だから参加するといった受け身の態度では本当の力は身に付きません。それに対してFSP講座は、講座自体で能力を身に付けるというより、その後の大学生活全体で能力を高めようという自覚を、入学したばかりの学生に強烈に植え付けるものといえます。そうやって意欲的に4年間を過ごした学生が就職面接でも高く評価されることは、シンポジウムで企業側が口々に語っていたとおりです。