「あれっ! 言葉が遅れているかな?」と思ったら【前編】言葉の発達のメカニズム

1~2歳の時期の言葉の発達には、個人差があるものだとわかっていても、周囲のお子さまに比べて言葉を話し出すペースがゆっくりだと、焦ってしまう保護者のかたも多いと思います。そこで、お子さまの言葉はどのように発達していくのか、小児科医であり言語聴覚士でもある梅村浄先生にお話を伺いました。



言葉の発達のメカニズム

言葉というのは、機械的に覚えれば身に付くのではなく、心や体の発達と共に成長をしていきます。また、言葉を話すことは簡単なようですが、実にさまざまなプロセスを経ています。まず、私たち人間は、耳から言葉を聞きます。すると、頭の中に情報がインプットされ、理解したり考えたりし、自分の言いたいことを構成するようになります。インプットされた情報をもとに、「話したい」「伝えたい」という欲求が高まると、それは頭の中に止まっているのではなく、音声、文字、動作や表情として出るようになります。このようなプロセス(言葉の鎖)によって、人はコミュニケーションをしているのです。

その発達をさかのぼれば、胎児のころから始まっています。妊娠7か月のころから、胎児は音が聞き取れるようになり、お父さんとお母さんの声を聞き分けることができます。0歳児の赤ちゃんも、あやすと保護者のほうを見ますよね。おなかがすいたり、おむつがぬれたり、不安を感じたりした時は、泣いて訴えます。こうした行為もコミュニケーションの一つです。保護者は、言葉がなくても、赤ちゃんの表情や様子から、何を訴えているのか感じ取ることができるでしょう。

次第に、赤ちゃんは「あーうー」などの喃(なん)語を話しはじめ、1歳前後になれば、保護者の言葉をまねしたり、動作をまねしたりするようになります。たとえば、指を指した方向を見ることや、ちょうだいと言えば持っているおもちゃを差し出すことができるようになります。これは、言葉への理解が進んでいるという証拠であり、言葉が出てくる前後に頻繁に見られる行為です。喃語から、ちゃんとした発音ができるようになるのは、体の発達も影響しています。特に関係があるのが口の機能の発達です。離乳食も完了期に近付くと、食べ物をよくかむようになり、舌・唇・あごなど口の機能も鍛えられるのです。
心の発達と体の発達が伴うと、「ママ」「パパ」などの意味ある言葉を話しはじめます。初めて話す言葉を、始語と言います。一語文から二語文を話すまではゆっくり感じられるかもしれません。物に名前があることを知り、それを使うと便利だということに気付くと、言葉が急に増える時期を迎えます。このように、お子さまが言葉を話すようになるのは、革命的なことなのです。言葉は平面的に育つのではなく、体の成長や口の成長など、立体的に育っていくものだということをまずご理解いただきたいですね。



言葉の遅れとして考えられる原因

私は、長年小児科医として勤務したあと、現在はこども診療所相談室を開設し、自由診療・予約制で言葉に問題を抱える子どもの相談に乗っています。1歳半~2歳ぐらいの保護者のかたから、「言葉が遅い」という相談を受けます。マンマ(ご飯)やママ(お母さん)など、意味のある言葉を話さないと、心配になるようです。ただ、保護者と気持ちが通じ合い、言葉の理解があれば、様子を見てもよいと思います。具体的には、名前を呼んだら、自分の名前がわかって振り向き、相手の目をしっかり見るでしょうか。きちんと聞こえるかということも重要です。このような言葉の理解があれば様子を見ていますが、理解が伴わない場合は、次のような原因が考えられます。

(1)難聴など聞こえに問題がある場合
(2)自閉症スペクトラムの特徴を持ち、人との関わりが苦手な場合
(2)知的障害など全体的に発達がゆっくりな場合
(4)脳性まひの場合

上記のような原因がなくても、言葉だけが遅れる場合があります。それはその子のペースだと言えます。背の低い人もいれば、高い人もいるのと一緒です。でも、焦ってしまうかたも多いと思います。特に、育てにくさを感じているなら小児科医や子ども家庭支援センターなどの専門機関に相談をしてほしいですね。周囲の人に相談することで、お子さまのタイプにあったアドバイスがもらえ、子育てがだいぶ、楽になると思います。

次回は、お子さまの言葉を増やすために具体的にはどのような関わりをすればよいのか、アドバイスをいただきます。


プロフィール


梅村 浄

小児科医・言語聴覚士。西東京市にある梅村こども診療所で、20年以上、地域の子どもたちを診察。現在は、梅村こども診療所相談室を開き、自由診療・予約制で子どもの言葉と心の相談を行っている。著書に『こどもの心に耳をすます』(岩波書店)など。

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