2017/03/08

[第4回] 独自ワークシートの「問い」と教科書で、クリティカル・シンキングを育む ~安田学園安田女子中学高等学校の「SS科学言語」の実践 [3/4]

2.授業の様子

個人での思考を基本に、ペアやグループワークで思考を深める

 続いて、「SS科学言語Ⅰ」の授業の流れを具体的に紹介する。
 1月中旬に行われたこの日の授業では、現代文の教科書にある課題文「世界中がハンバーガー」の読解を行った。アメリカ発の食文化であるファーストフードを切り口にしながら、グローバリゼーションについて考えるという内容だ。
 前時の授業で、生徒は課題文を読んで構造図を書いており、内容をある程度理解している。構造図とは、ほとんどの課題文について、初回の授業で生徒それぞれが作成するものだ。「構造図作成の際は、『原因と結果』『具体と抽象』といったポイントを示すなどして、書き方の指導をしています。毎回同じ基準で書くことで、読解を助ける手立てとなります。また、構造図は提出させて、3段階で評価しています」(教誓先生)
構造図の例(教誓先生が作成)
 本授業では、「SS科学言語(国語科)CT評価規準」のうち、それまで授業であまり扱っていなかった「共通構造(問題領域)をつかむ力」を高めることを主な目的として、教誓先生作成のワークシート(授業2時間分で11問)の問題に沿って読み解いていった。
 授業の導入では一斉講義の形式で、生徒が「共通構造」に着目できるよう、スライドにアメリカの「オバマ大統領」と「ボブ・ディラン」の顔写真を映し、 「2人はどういう関係か?」と投げかけた。生徒たちは「1人はオバマ大統領だよね」「もう1人は?」など、周りの生徒と話しながら口々に発言し、最終的に「ノーベル賞受賞」という共通項が上がった。ほかにもスライドを見て共通項を探すというウォーミングアップをいくつか行った後、ワークシートの設問に入った。
 設問は、生徒が個々に考える活動を基本とし、ところどころで席が隣同士、または4人程度のグループで意見を出し合うという活動を行った。また、設問それぞれに「共通点を読む」「反論する」「定義する」「逆から考える」といった思考法を示しておき、自分がどのような活動を行っているのかを認識できるようにした。
机間指導で生徒のワークシートを確認。
他の生徒の思考を深められそうな解答をチェックする
 特にポイントとなる設問は、教誓先生が「しっかり考えてください」と、注意を促す。また、解答は、先生が机間指導でこれはと思った生徒2?3人を指名して発表させ、全体で共有した。「生徒が他者の考えも知って、段階を追って考えを深められるようにしつつ、テンポよく授業を進めることにも配慮しています」と、教誓先生は説明する。

教科書を独自ワークシートの「問い」を通して読み、「共通構造を読む」力を高める

 ワークシートの問いは、個人で活動する→グループで対話する(拡散)→グループで意見を絞る(収束)→思考実験をするという流れになるよう出題されている。
ワークシートを回し、他の生徒の解答を確認。
自分の考えを深める
 この日の授業の最初の問いは、「産業革命」と「ハンバーガー」の共通点を見いだすというものだ。そして、次の問いでは、共通点とは対局となるワークシートの考えに反論する問いかけを行い、「世界中がハンバーガー」とはどのような意味なのかを、教科書を確認しながら生徒個人の活動で考えていく。3つ目の問いは、「グローバリゼーション」の定義だ。この問いは生徒同士の対話を通して考えを広げる。その流れはこうだ。
 まず、生徒は個々に「グローバリゼーション」の定義を考えてワークシートに記入。その後、席の近い者同士5?6人でそれぞれのワークシートの回し読みをする。回し読みの際には、生徒たちは「国際化とグローバル化の違いについて、前に言っていたよね」「そうだった、忘れていた」など、自分がなぜこの定義をしたのか、教科書や過去のワークシートを参考にしながらそれぞれ考えの過程を確認し合う。5分ほど話し合った後、ほかの生徒の考えも踏まえて、自身の解答を完成させる。机間指導をしながら生徒の進捗と解答を確認していた先生が2、3人を指名。指名された生徒は「グローバリゼーション」の定義について、「世界が統一すること」「各国の文化を受け入れること」などと発表。先生は生徒全員の思考が深まるよう各発言に補足しつつ、「グローバリゼーション」とは何かを問い続け、生徒はさらに考えを収束させた。
 続いての問いで、「グローバル」の対となる「ローカル」とは何かをイメージさせた後、先生は「グローバル化が進んだ社会と、ローカル化が進んだ社会のどちらの未来に行きたいか」と投げかけ、思考実験につなげていった。
グローバルとローカルについて、板書で整理し、全体で共有。
 「机間指導では、クラス全体の思考を深めるためにどの生徒を指名するのかを考えながら、解答の状況を確認しています。また、指名する生徒を固定化しないことも配慮しています。正解まであと一歩という生徒をあえて指名して発表させることで、自信を持たせることにもつなげています」(教誓先生)
 後半はグループワークが中心だ。「『ファーストフードが世界規模で広がった原因』と『ファーストフードが世界規模で広がった結果』は同じであると言えるのはなぜか」という、原因と結果を読み解く問いでは、4人で話し合って解答を1つにまとめた。
 「グループワークでは、『答えを出し合う』ことと、『答えを収束させる』ことの両方を重視しています。社会に出れば、大半の仕事は個人でなく、集団で行うことになります。一人ひとりの考えが異なっても、集団として考えを1つに収束させて、仕事を進めていかなければなりません。それに似た経験を高校時代から積んでいくことが、将来の力になると考えています」と、教誓先生は説明する。
グループで課題に取り組む
生徒の思考が記入されたワークシート
 答えを1つにまとめる場面では、グループによっては自分の意見を押し通してよいのか、メンバーの意見に賛成してよいのかが分からず、話し合いがまとまらないまま、なんとなく答えを書いている様子もうかがえた。それは、今後の課題だと教誓先生は捉えている。
 最後に、本時のねらいである「共通構造を読む」を高める活動として、以前に学習した教科書の課題文から共通項を探す問いに、グループで取り組んだ。 1つにまとめた解答を3グループほど発表し、先生が次回の授業の概要を説明して、本時の授業は終了した。「授業の冒頭で、関係のなさそうなものから共通項を探す活動を行いました。既習事項と結びつけて、共通構造を読む力をつけるために、既習の課題文を最後の設問としました」(教誓先生)