2017/03/08

[第4回] 独自ワークシートの「問い」と教科書で、クリティカル・シンキングを育む ~安田学園安田女子中学高等学校の「SS科学言語」の実践 [2/4]

1.「SS科学言語Ⅰ」の概要

全校共通のCT評価規準を作成し、教科を超えて活用できる力を育む

 安田女子中学高等学校は、「柔しく剛く(やさしくつよく)」という創立以来の建学理念の下、「哲学的裏付けのある教育を行う(確固とした論理的裏付けのある教育を実践する)」「全ての物事の本質を問い、根本に目を向けて教育内容を構築し実践する」を教育の基本方針として、生徒を育成している。
 また、同校では、教育研究部を中心に指導法などを研究しており、現在はSSHの指定を機に研究を深めてきたCTを、全生徒に育成すべき力として捉え、学校全体で育成に力を入れている。育成には、京都大学の楠見孝教授の協力を得て、「CT評価規準」(全36項目)を設定し、教科を超えて指導の足並みをそろえて進める工夫もしている。その評価規準は、「A 態度」「B 分析的思考」「C 論理的思考」「D 多角的思考」「E メタ認知」の5つ(各規準5~11項目ずつ)に大別される。
 SSH主対象クラスで行う学校設定科目 「SS科学言語Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」(第4?6学年)では、その「CT評価規準」を、国語の授業で身につけるべき具体的な能力として、右図のように131項目に細分化し、「SS科学言語(国語科)CT評価規準」として設定した。
科学言語で設定した131項目の具体的な能力(抜粋)
 「この131項目を授業でバランスよく実践することによって生徒のCTを育成し、そのCTを、他教科の授業や探究学習、さらには日常生活においても発揮できるようになることを目指しています」と、教誓先生は語る。
教誓悠人先生
 例えば、「C論理的思考」の「推論する」を育成する活動として「公式から適切な結論を導くことができる(演繹)」が挙げられているが、これは、古文や数学でも活用できる思考法だ。
 「『国語の授業で演繹的推論を使ったよね』と、他教科の授業でも声をかけることで、生徒は過去に学習した内容を思い出し、今の学びに当てはめて活用し、問題を自ら解いていくことができます。そうした声かけも、学校全体で評価規準を共有することで可能となります」と、SSH委員会副委員長の岸田先生は説明する。
岸田宜治先生
 この評価規準は毎年見直しをして、改訂を重ねている。CTの育成に本格的に着手してから5年目。全教科で運用しやすい規準とするために、さらなる改善を図っていきたいという。

各授業で実践した項目を記録し、年間でバランスを取りながら授業をつくる

 第4学年(高校1年生)で行う「SS科学言語Ⅰ」の授業では、教科書や独自教材の課題文を読み解く際に、131項目の活動の中から、適切な思考法を組み合わせたワークシートを教誓先生が作成し、その課題に個人、ペア、グループで取り組みながら進めていく。
 年間の指導計画は教科書や独自教材を基に年度当初に作成しているが、毎回の授業づくりはその都度考える。各授業で、「SS科学言語(国語科)CT評価規準」の131項目のどの項目を扱ったのかを記録。授業での扱いが不足している項目や、授業で扱ったけれども成果があまり見られない項目をチェックし、生徒の状況を見取りつつ、随時取り入れたり修正したりするためだ。
 「例えば、『具体と抽象』は、現代文では活動しやすい項目で、無意識のまま授業づくりをすると、課題文の具体化と抽象化をする活動に偏ってしまいます。年間でどのような課題文を扱うかを考慮して、具体的な授業内容を見通しつつ、年間で活動が均質化するよう、弾力的な授業づくりをしています」(教誓先生)
 「SS科学言語」を始めてから5年が経ち、独自教材やワークシートはかなり蓄積されてきた。それらを教科書と関連づけながら精選していくことが、次年度に向けた課題となる。
 「評価規準の項目数が多いという意見もありますので、これまでの成果と課題を整理して、どの先生が授業を担当することになっても、指導の質が担保されるようにまとめたいと考えています」