子どもが「できる子」になる言葉[やる気を引き出すコーチング]
「それでは、『うちの子』について、隣の人と2分ずつ話してください」。保護者向けの講演会の冒頭で、よくこのような投げかけをします。最初は、「えー!?」と、戸惑い気味の皆さんですが、しゃべり出すと止まらない勢いです。
「さて、『うちの子』について、どんな話をされていましたか? 『うちの子にはこんなよいところがあって、ここがすばらしくて、特にこのへんが自慢なんです』という話でしたか?」私の問いかけに、苦笑いしながら首をかしげる皆さん。「では、『うちの子はこんな困った子で、あれもできないし、これもできない。最近は、特にこのへんが問題で』という話でしたか?」これには、大笑いしながら激しくうなずく皆さん。よそのお宅の人に、我が子自慢はなかなかできないものですが、ご家庭では、ぜひ大いにやっていただきたいのです。なぜなら、それがお子さんのやる気スイッチにつながっているからです。
「できる子」と伝え続ける
私の周りには、自分のやりたいことで成功している大人がたくさんいます。人間的に魅力があり、常に前向きです。すべて順風満帆かというと、そういうわけでもなく、よく聴いてみると、人生の荒波をいろいろと乗り越えてきて今に至るという人もいます。しかし、本人にはあまり「苦労」という認識はなく、むしろ、逆境も楽しんできたような人もいます。こういう人たちの親御さんが、我が子にどんな言葉をかけてきたのかを聴いてみると、とても面白いです。
コーチ仲間Tさんのお母さんは、折々に、「あなたは、頭悪く産んでいないから」とおっしゃっていたそうです。定期テストの成績が思わしくなくても、「あなたは、頭悪く産んでいないから、次は大丈夫!」と言われると、「そうかな」という気がしてくるらしいです。そう思って勉強すると、中学生の時、学年トップになったこともありました。それで、ますますやる気がわいてきたそうです。
起業家Sさんのお母さんもなかなか面白い人です。テストで赤点を取って帰って来た時、怒られるのかと思ったら、「なんかおかしい」と、不審げな顔をされたというのです。「この点数は何かの間違いじゃないの? あなたがこんな点を取るなんて、そんなはずはない。あなたはもっとできる子なのに」と、まじめな顔でおっしゃったそうです。その真剣な様子に、「今回は手を抜いてしまった。次はがんばろう」と思ったそうです。
大物を育てる親御さんは、やっぱり器が大きいですね。保護者がぶれないで、「できる子」として声をかけ続けたら、お子さんもしだいに、「自分はできるんだ」と、その気になっていくのでしょう。
信頼を前提に伝える
私が高校生の就職カウンセリングをしていた時に、「先生や親から言われてやる気を失った言葉」として、高校生が話してくれた言葉があります。
「全部落ちたら、どうするんだ?」
「どうせダメなんだから、やめておいたほうがいい」
「まだやっていないの? どうせやらないつもりでしょう」
など、こうして挙げているだけでも心が痛くなってきます。
「あなたはできない。やらない」が前提となっているこれらの言葉で、やる気などわくはずもありません。「あなたはできるよね。やるよね」という信頼を前提にした伝え方だと、自己肯定感も高まり、やる気がわくものです。
「全部合格したら、どうする?」
「きっと本番の面接ではうまく話せるよ」
「あなただったら、自己PRもすぐに書けると思うよ」
といった、信頼がこもった言葉のレパートリーを増やしていきたいですね。
こちらが子どもに対して、プラスのイメージを持つこと、信頼すること、それを言葉に出して伝え続けることが、子どもの心を動かし、やる気や行動へとつながっていくのではないでしょうか。
『言葉ひとつで子どもが変わる やる気を引き出す言葉 引き出さない言葉』 <つげ書房新社/石川尚子(著)/1,620円=税込み> |