生徒一人ひとりに寄り添い指導する、調理科の授業[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。そのなかで、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。



今回、紹介するのは、高校1年生の調理科の授業です。場所は三重県で、ドラマのモデルにもなった学校です。ドラマ化される5年ほど前に取材しました。
取材したきっかけは、各地で開かれる料理コンテストで上位入賞を続けている学校があるという話を聞いたことです。詳しく調べてみると、先生の指導力に秘密があることがわかりました。

そのキーワードは2つ。「寄り添う」と「徹底反復」です。
この2つは、「教える」ことの根本だと思います。でも、どのように「寄り添う」と効果が出るのか? 「徹底反復」を飽きずに行わせてレベルアップするには、どのような働きかけがよいのか? この問いに明確な答えを持っている先生は少ないように思います。

さて、今回、取材させていただいたAC先生の授業は、1年生が料理の基本であるアジの三枚おろしに挑戦し、1週間5時間で20人全員にマスターさせるというものです。
まず、授業開始で、見たことのない光景に出会いました。
授業は、全員白衣に着替えてから行われるのですが、生徒たちは、食材を調理室に運び入れるのを手伝うと、すぐに更衣室に向かい、競うように早く着替えを済ませて、中にはダッシュで調理室に向かう生徒もいます。そして、狙うのは、教壇の一番前の席です。そして、授業が始まる10分前には、生徒全員が着席しているのです。
「そんなに待ちどおしい授業が存在するのか……」というのが第一印象でした。

授業では、まず先生が手本を見せます。アジの三枚おろしのポイントは、包丁を入れる角度です。これを先生は、何度も何度も繰り返して伝えます。そして、すぐに実習に入ります。頭でできていたことが、実際にやってみるとどうなのかを体感させるのです。
包丁の持ち方は、指差し型。
足を半身にして立ち、手を平らにして魚を押さえる。つまり、つかむのはNG。
まず、ヒレの上に、包丁を入れます。前につき、食い込んだら、すーっと引く。
当然、できません。
問題は、包丁の角度が定まらないことです。そこで先生は、手を添えることで、包丁の正しい角度を感じ取らせます。
AC先生が心がけているのは、困った時、いつでもすぐに横に入ること。それは、生徒たちが自信がないからです。だから、そっと手を添え、手が覚えるまで反復練習を繰り返し、力の配分を身に付けさせます。「できる者だけがわかる力の配分」を感じ取らせると、その後の成長は加速すると言います。

とは言いながら、生徒たちは、必ず同じ失敗をします。でも、同じ指示を続け、あえて厳しく叱るそうです。でも、うまく行ったらたくさんほめます。ここが先生が狙っているところです。それは、ほめられた時の成功体験を記憶に留めさせたいからです。だからこそ、事前に厳しく叱ることが大事だと言います。

AC先生に、「理想の授業とは?」と聞くと返ってきたのは……。
「教室に何人いても僕と生徒一人ひとりとのやりとりで個別指導になる授業」
という答えでした。いい先生だと思いませんか?


プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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