理科の授業、充実させても……子どもには伝わっていない!? ‐渡辺敦司‐

理科の授業では、単に知識を覚えさせるだけでなく、観察・実験や、結果を考察させる学習を充実することが長く学校の課題となってきました。しかし、学級担任が全教科を教えるのが原則である小学校では理科が不得意な文系出身の先生が多かったり、中学校でも高校受験を意識しなければならなかったりして、なかなか充実が図られていないのも事実です。教育委員会でも観察・実験の教員研修を充実させたり、各学校でも校内研修を行ったりと努力を重ねているのですが、必ずしも効果は上がっていないようです。

理科をめぐっては2012(平成24)年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で、国語と算数・数学に加えて、初めて出題されました。その結果、観察・実験の結果などを整理・分析して解釈・考察したり説明したりすることに課題があることが浮き彫りになっていました。そこで国立教育政策研究所(国研)はこのほど、実際の学校での調査も含めた追加分析を行い、結果を報告書にまとめました。
小学校で、理科の指導として実生活との関連を図った指導を「よく行った」「どちらかといえば、行った」と肯定的な回答をした学校は計74.4%と、4校に3校を占めています。実生活との関連付け(外部のPDFにリンク)は新学習指導要領(小学校は2011<平成23>年度から全面実施)の改訂ポイントでもありますから、否定的な回答をした学校が依然4校に1校あるとはいえ、各学校でも努力していることの表れと見てよいでしょう。

一方、「理科の授業で学習したことを普段の生活の中で活用できないか考え」ると回答した児童(「当てはまる」「どちらかといえば、当てはまる」の合計)の割合は、実生活との関連付けを指導した学校で62.4%、指導しなかった学校では60.6%と、それほど大きな違いがありませんでした。平均正答率で見ても、学校の指導の有無ではほとんど差が見られなかったのに対して、正答率を押し上げていたのは児童の意識の高さでした。つまり、学校側が意識して指導を行っていたとしても、それが必ずしも児童に伝わっていないことを示しています。中学校でも、同じような結果が見られました。むしろ平均正答率は、児童・生徒の意識の高さに影響されていると言います。
実際に中学校で調査しても、観察・実験の技能に関する知識はあるのに実際には使えていなかったり、班単位では観察・実験ができていても一人ひとりの習得には至っていなかったりすることがわかりました。授業で形だけ観察・実験の時間を充実させていても、個々の生徒の定着には結び付いていないのです。

もちろん各学校には、一人ひとりの児童・生徒に、知識・技能や考える力をしっかり付けさせる指導を充実してもらうことが急務です。一方で家庭でも、小さいときから自然に目を向けさせるなど子どもの意識を高めることが、学校での理科の成績を上げる早道かもしれません。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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