「引き込み現象」による効果的学習法
リズムを合わせることが効果を高める
ここまで数回にわたり、冬の運動と勉強の関係性についてお話ししてきました。簡単に言うと、「冬は身体の機能が活発でなくなってくるので、脳の働きも停滞する傾向にあり、それを活発にするために、運動が効果的である」ということでした。「適度な運動をすることによって、脳への刺激のバリエーションが増えて、学習効果が上る」ということも理解していただけたと思います。
そこで今回は、学習の効果をさらにアップさせる、運動と勉強との関係についてお話ししたいと思います。
さて、皆さんは「引き込み現象」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 英語では、entrainment と書くのですが、これは簡単に言うと、「同時に行う異なる動きのリズムが、次第に合ってくる」という現象です。これはどういう現象かと言いますと、たとえば脚の長さの違う二人が一緒にジョギングをしたとします。脚の長さが違うので、当然ピッチが違うはずなのですが、しばらく一緒に走っていると、不思議とピッチが合ってくるのです。お子さんと二人で10分ほどジョギングしてみてください。走り始めてしばらくすると、「イチ、ニ、イチ、ニ」というようにピッチが合ってくるはずです。
このほかにも、隣同士で寝ている二人のいびきが同じリズムになったり、一人で歌うと音程をはずしてしまう人が、大勢で合唱すると音程をはずさずに歌えたり、といったことは、皆さんも経験したことがあるのではないでしょうか?
この引き込み現象は、他人との身体の動きだけでなく、自分の体内の機能にも見られます。たとえば、人間の身体のさまざまな臓器は、心臓の鼓動に同調して動いていることが多いのです。
このように、人間の身体には、一定のリズムに引き込まれて共鳴する習性があるのです。人間は母親の胎内でリズミカルな鼓動を感じながら育ってきます。そのため、本能的に一定のリズムというのは、心地良いのでしょう。また、エネルギー効率を良くするための本能的な現象だとも思われます。
そして、本能的に一定のリズムを求める習性があるということは、「一定のリズムの中では、人間の脳はリラックスして、効率的に働くことができる」と言えるわけです。これまで、何度か運動と学習効果について触れてきましたが、リズムに合わせて学習することは、その効果をさらに上げることが期待できるのです。
引き込み現象を利用した勉強法
では、一定のリズムの中で脳をリラックスさせながら、効率的に働かせるという引き込み現象の効果を応用した、家庭で手軽にできる学習法を実際にいくつかご紹介したいと思います。
まずは、踏み台昇降です。15~20センチくらいの高さの、平らな台があればよいでしょう。片手で柱などに触れてバランスをとり、参考書や暗記帳を手に持ちながら、左右の脚で交互に昇り降りしてください。この時、最初は参考書(暗記帳)を読まずに、「イチ、ニ、イチ、ニ」と口でリズムをとりながら10回ずつ昇り降りしてみてください。一度休んでもけっこうです。昇り降りのリズムがつかめたら、それ以降は昇り降りしながら、声を出して参考書(暗記帳)を読み始めます。次第に昇り降りする足のリズムに参考書を読む声が合ってくるようになります。ただし、長くやり過ぎると疲れてしまうので、ちょっと息があがったな、と思うタイミングで休憩します。もし、手頃な平らの台がない場合は、家の階段の一段目を昇ったり降りたりしてもよいでしょう。
もうひとつの方法はつま先立ちです。足を肩幅の広さに広げて、やはり柱や壁に片手を触れてバランスをとって立ちます。参考書や暗記帳を手に持ちながら背筋を伸ばしてください。そしてそのままの状態で、「イチ、ニ、イチ、ニ」とリズムをとりながら、つま先立ちをします。これも10回くらいしたら、参考書(暗記帳)を読みながら行ってください。この場合も長くやり過ぎると疲れるので、疲れない程度(20~30回程度)で行ってください。
3つめはスクワットです。足を肩幅より少し広めに開いて立ちます。つま先立ちと同じく、参考書や暗記帳を手に持ちながら背筋を伸ばしてください。そのまま、ひざを曲げます。この時、ひざを深く曲げると脚に負担がかかるので、軽く曲げる程度でOKです。つま先立ちと同様、曲げるリズムに合わせて、参考書(暗記帳)を読みます。
この3つの方法は、どれも長く続けると疲れてしまうので、それぞれ20~30回くらい、身体に負担がかからない程度に行ってください。適度な気分転換に効果的です。必ず声を出して参考書(暗記帳)を読んでください。
受験(試験)勉強を続けていくうえで、睡眠は非常に大切ですが、机に座ったままで勉強を続けていると神経が疲れて、眠れなくなってしまうことがあります。こうした手軽な運動を組み合わせることで、学習効果が上がるだけでなく、適度に身体が疲れて、深い睡眠をとることも可能になります。今回ご紹介した、「引き込み現象」を取り入れた学習法を、試してみてはいかがでしょうか?