国立大学の「女子枠」はアリ? 全入時代の入試
九州大学の理学部数学科が、2012(平成24)年度から導入を予定していた「女性枠」入試が、取りやめ(※外部のPDFにリンク)になりました。大学側によると、法の下の平等に反するのではないかという意見が寄せられ、このまま実施した場合の社会的影響や、入学生の精神的負担などを考慮したためだと言います。ただ、女子枠は、どうやら「男女差別」か否かといった単純な問題では片付けられないようです。
そもそも、なぜ女性枠を設けようとしたのでしょうか。もともと九大では、「男女共同参画」を進めるために、女性教員や女性研究者を増やそうと熱心に取り組んでいます。そのためにも、入り口である学部入試の段階で女子の入学者を増やしたいと考えました。そこで、入学定員54人のうち、一般入試の後期日程9人を、「一般枠」4人と「女性枠」5人に分けて募集することにしたのです。これによって、大学だけでなく企業でも活躍できる、優秀な女子学生を発掘したかったと言います。発表(※外部のPDFにリンク)は、昨年の3月でした。
ところで、問題となっている女子枠は、実は初めてではありません。九大によると、昨年の段階で、既に6大学が女子を対象とした推薦入試を行っています。この中には、同じ国立である名古屋工業大学も含まれています。名工大の工学部機械工学科では、以前から、15人の女子推薦枠(※外部のPDFにリンク)を設けており、2011(平成23)年度も28人の受験がありました。
そもそも国立大学には、お茶の水女子大学・奈良女子大学という、女子大学が2校あります。これも見方を変えれば、全学挙げての女子枠だと言えるでしょう。
保護者の方々の世代にとって、大学入試は、一発勝負、一点刻みの入試の成績によって合否が決まる、公平で平等でなければならないもの、と思われることでしょう。しかし、もう10年以上も前に、旧文部省の審議会が、大学入試において「絶対的な公平性」という考え方から脱却することを求めていました。そこで重要になるのが、大学それぞれの教育理念に応じた「アドミッション・ポリシー」(AP=入学者受け入れ方針)です。APは、大学が育成を目指す人材像までさかのぼって、卒業認定方針→カリキュラム方針→入学者受け入れ方針、と順次導き出される形で決まってくるとされます。つまり入試は、入学後の教育や育てたい卒業生像と、密接に関連していることが求められるのです。
女子を多く入学させ、きめ細かな指導や環境整備を行って、大学や社会で活躍できる女性を育てようとした九大数学科の考え方は、実はそのような新しい入試の在り方に合っていたとも言えるのです。
医学部では、地元の高校生などを対象とした「地域枠」が今や当たり前になっていますが、これも昔のような「絶対的な公平性」からは外れるものです。
「大学全入時代」を迎えた現在、大学側の方針によって、募集の形態はますます多様化してくることでしょう。国立大学も、その例外ではないのです。