雰囲気の良いクラスを作ることができる授業[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。そのなかで、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。


保護者のかたが、子どもを安心して任せられるのは、どんな先生でしょう?
いくつか条件が挙がると思います。そのなかに、わたしは「雰囲気の良いクラスを作ることができる」という条件が入ると思います。子どもたちが一日の大半を過ごすクラス。そこで「楽しく過ごせる」というのは、学校生活での基本的な条件だと思うからです。そして、それが実現できるかどうかは、先生の技量に負うことが大です。
また、「雰囲気の良いクラスを作るために必要な力」と「効果の上がる授業を行う力」には、共通点があります。それは、子ども一人ひとりの個性を見取る感性です。受け持ちの先生が、この感性があるかどうかを確かめるのには、書いたり、作ったり、体を使ったりする活動の指導を見ればすぐに判断が付きます。できない、または、何かが足りないという状態の時、的確な指導があると、子どもは大きく変容します。つまり、的確な指導とは、子どもの個性をきちんと見取ったうえでの助言のことです。子どもの状態が「できない段階」のどの位置なのかを見取り、その性格と持っている能力から、やる気と取り組むためのきっかけになる言葉を瞬時に出せるかどうか。これが、先生の授業力を図る大きな目安だと思います。

ちょっと前置きが長くなりましたが、今回紹介する東京都の小学校w先生は、雰囲気の良いクラスを作る達人です。
w先生の口癖は、
「子どもは、先生の鏡。子どもの目が輝いていれば、先生の目も輝く」。そのために大切にしているのが体育の授業です。授業を受けるのは、6年生です。
授業で行うのは、ハンドボールです。ボールを受けて投げることができれば、誰でも参加できる競技であり、ボールを持って3歩しか歩けないので、いかに作戦を立て、パスをつないでいくかが勝敗を分けます。つまり、ハンドボールは、自然と子どもたちの会話が弾み、励まし合い、教えあうようになる仕組みが備わっているのです。
ちなみに、他のルールとして、w先生のクラスでは、1チーム5人。1人は外。1試合は、8分となっています。

w先生の授業には、さまざまな工夫が詰まっています。


工夫(1) 楽しく、気持ちを高める

取材した時の準備運動は、ボールを使った爆弾ゲーム。音楽が止まった時、ボールを持っていたら負け。自然とすばやくボールをパスするようになります。このようなゲーム感覚を入れるのは、楽しいだけでなく、気持ちを高めるという効果を狙っています。


工夫(2) 友達と作る目標

子どもたち同士での話し合いをしやすくする工夫が「学習ファイル」です。これは、その日の目標と作戦を書き込むもので、チームとしてどんな気持ちで臨むのか、という目標を言葉にします。そして、よくできた◎、できた○、もう少し△という自己評価をします。
「勝ちたい!」、だからこそチームでなんとかしたい。すると、自然と助け合い、仲良くなり、友達がシュートを決めると、喜びを共有しあうようになります。そのなかで、「友達っていいな!」と感じる経験をいっぱいすることが、良い雰囲気のクラスになる土台となるのです。

チームと自分の課題を持ってから、練習が始まります。先生に言われたのではなく、自分たちで、しかも友達と決めた。この設定は、何よりやる気が出ます。
いろいろな学校に行って、授業を見ながら、このような「友達力」ともいうべきパワーを他の先生も活かせば良いのにと思います。でも、なかなかそのようなクラスには出会えません。
陰の努力ともいうべき準備段階を上手くできないからだと思います。「友達力」が発揮されるよう、w先生は、課題を作る時など、悩んでいる子どもやチームに寄り添い、さり気ないアドバイスをしていきます。それも押しつけず、答えを言わず示唆するだけ。ここは、達人ならではの技が光るところです。


工夫(3) 自分を振り返る手だて

w先生は、子どもたちが自分自身で課題を見つけられるような手だても準備しています。
ボールを持つ人が偏っているため、なかなか勝てないことに気付いたチームがありました。なぜ、このチームは、気付いたのでしょう? それは、各試合に必ずつく記録係のおかげです。記録係は、試合がないチームのメンバーが担当し、ボールが誰から誰にパスしたかされたかを下記のように記録していきます。

記入前記入後

なぜ、勝てないのか?と自分たちを振り返る時、この記録が役に立ちます。ここでは、主に2人の間でしかボールが回っていないことがわかりました。そこで、自分たちを振り返り、「パスの記録を星型にしよう」という目標を立てました。


工夫(4)隠れた自分の可能性を発見する

多くの先生がよくやる方法ですが、クラスのみんなで、友達の良かったところを書き出し、評価します。カードにコメントを書き込み、黒板にシュート、キャッチなどの分野別に張り出します。
どんなものが書き出されたかというと、たとえば……
・ゴールできなかったのに「ドンマイ」と言ってくれた
・こうしたほうがいいとアドバイスしてくれるところ
・練習の時も一生懸命マークしていた
など
ほかの人から、良さを認めてもらうことで、やる気と意識化が図れます。しかも、自然とほかの人の良いところを探し出そうという姿勢も身に付きます。

w先生のさまざまな工夫の成果は、ルール変更という形に表れました。
クラスで課題を共有したことで、みんなからルール変更の意見が出たのです。全員が得点したらボーナス点を出そうというのです。これだとボールが苦手な子にも回る可能性が高まると考えたからです。

いつもそばには、仲間となった友達がいる。
すると、子どもたちは、勝った時は嬉しさを、負けた時は悔しさを、思いっきり体全体で表すようになります。雰囲気の良いクラスって、そんなクラスだと思いませんか?


プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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