【自由研究のヒント】地域の伝統工芸を調べて、歴史や特色を知る<調べ学習>
日本には、多彩なモノづくりに関するすぐれたワザがあります。古くは陶磁器や漆器、木工などの伝統工芸。また、身近な町の工場には世界最先端の技術があったりします。夏休みの機会に、こうした日本のモノづくりの現場に触れることで、さまざまな≪気付き≫があり、新しい発想や視点も生まれてくることでしょう。
身近な伝統工芸品に注目してみる
現在、経済産業大臣指定伝統的工芸品は、全国で211品目に及びます。それ以外にも都道府県や市区町村が指定する伝統工芸は数多くあります。実は伝統工芸はとても身近なものです。まずはお子さんと一緒に家の中を見まわしてみましょう。たとえば毎日使っている茶碗(ちゃわん)や湯飲みは、郷土でつくられている陶磁器かもしれません。また漆器の汁椀(しるわん)、代々受け継がれてきたお母さんの着物、箪笥(たんす)やその上に置かれた何気ない置物など、きっと何か、古くからの地域の技によって生み出されたものがあるはずです。
<調べる>伝統工芸が誕生した背景や歴史について情報収集する
何かひとつ、伝統工芸品に注目したら、今度はそれがどのようにつくられてきたか、情報を集めてみましょう。買ったものでしたら、お店の人に聞いてみるのもよいですし(伝統工芸の中には、販売しているお店が工房を持っていて、そこで制作している場合も数多くあります)、インターネットである程度調べることもできます。各地域にある資料館や工芸館では常設展示で解説していたり、イベント等を行ったりしている場合もありますので、情報収集に役立てましょう。
そうして調べていくと、いろいろなことがわかってきます。たとえば陶磁器でしたら地元で良質な粘土が偶然見つかったことから発展した、漆器でしたら漆の木やベースとなる木地に適した木が生えていたから盛んになった、などの地理的な背景。江戸時代、お殿様が地域の産業振興のため、江戸や京都から職人を招いて新たな産業とした、などの歴史的背景。伝統工芸品をとおして、郷土の特色が見えてきます。
<体験する>実際にモノづくりに触れてみる
少し調べてみたら、今度は「現場」に出て、実際にモノづくりに触れてみることも大切。文字や写真だけでなく、本物を見て、触れて、体験することで、モノづくりに込められた熟練の技術や職人さんの思いを、より深く理解することができます。本物に触れられる場所はさまざまですが、自治体や協同組合などが運営する郷土資料館や工芸館等は、工芸品が常設展示されていたり、制作体験ができたりする施設もあります(都道府県や協同組合のホームページで検索してみてください)。
たとえば茨城県笠間市にある「笠間工芸の丘」は「笠間焼」のろくろ体験や手びねり体験のできる施設。気持ちの良い広々とした丘の上にあり、充実した施設の中で、地元で作家活動をされている職人さんの指導の元、陶器づくりが体験できます。つくったものは、乾燥させ、色付けをしてもらい、焼き上げ、郵送してもらえます。世界にひとつだけの自分の「作品」として、残すことができます。
※陶芸体験は、ろくろや手びねりによる成形のあと、乾燥工程などがあり、作品として完成するまでに時間がかかります。詳しい期間については各施設や教室にお問い合わせください。
このように体験では、実際に職人さんが来て指導してくれることもあり、モノづくりの「プロ」に出会える貴重なチャンス。作品のつくり方だけではなく、どんな修行をしたのか、自分が作品をつくるときは、どんな所にこだわっているのか、など聞いてみるのもよいでしょう。職人さんの中には物静かなかたもいらっしゃいますが、礼儀正しく丁寧にお話を伺えば、きっと親切にいろいろ教えてくれるでしょう。
<まとめる>テーマ選びとまとめかたのポイント
伝統工芸を自由研究として取り上げる場合、さまざまな切り口が考えられます。
○工芸品の原材料から見えてくる地域の地理的な特徴(地質や植生など)
○伝統工芸の成り立ちから考える地域の産業の歴史
○その工芸品がどうやって「我が家」までやってきたか、あるいは全国に広まっていったか(海や河川が運搬に利用できたことで原材料を手に入れやすく、また製品を輸送しやすかった、などの理由で繁栄した伝統工芸もあります)
○原材料の採取から、道具の作成・加工・完成までの流れの研究(伝統工芸の多くは、非常に長い時間をかけて作られます。手間をかけられたものだからこそ、長く使えることが実感できます)
自由研究としてまとめる場合には、体験した子ならではの観点を加えることも大切です。
○制作工程に見られる工夫やワザ。それが実際にどのように役立っているか
○伝統工芸は非常にエコなものでもあり、直して使う、リサイクルすることが普通のこととして根付いていたりします。そうした伝統を通じて、資源の少ない日本が培ってきた、モノを大切にする文化を知ることができます(輪島塗では塗り直したものは「なおしもん」と呼ばれ長く使われていますし、笠間では陶磁器のリサイクルの研究も進められています)
こうした自由研究を通じて、子ども自身が、郷土の自然に愛着を持ったり、ワザを生み出した郷土に誇りを持ったりすることでしょう。また、職人や周りの人の多くの手間がかかっていることを知り、日本が育んできた、モノを大切にする姿勢や、環境との共生の大切さを実感することができるのではないでしょうか。