こじらせる要因は教師にも 東京都教委がクレーム対応マニュアル

東京都教育委員会は、保護者のクレームなどへの対応をマニュアル化した「学校問題解決のための手引」を作成し、公立学校の教員全員に配布しました。一部のマスコミなどでは「モンスターペアレント対策」だ、などと報じられていますが、実際の大きな特徴は、学校が保護者や地域と「相互協力」していく関係を築くことをテーマにしている点です。内容をよく見ても、学校側の初期対応のまずさや教員特有の意識が事態をこじらせていることが多い、と指摘しています。逆に、保護者の方々が読めば、なぜ学校に苦情や要望を持ち込むと事態がこじれやすいのか、という背景を知ることができるかもしれません。

手引書は、保護者などへの対応事例に触れる前に、外部からの苦情に対する学校と民間企業などとの意識の違いを、実態調査などを基に解説しています。そこでは、苦情に対して「こちら(学校、企業など)の配慮不足」が原因だとする回答が最も低いのが学校である一方、相手を「クレーマー」と最初から決め付ける割合が高いのも学校だ、という調査結果が紹介されています。
また、他の職業と比較して、教員は「自分の意見を取り下げない」「(話すのは得意だが)人の話をうまく聞けない」「相手を気持ちよく納得させることができない」という割合が高いと指摘したうえで、クレーム対応の基本は、相手の気持ちを察して「まずは聴く」ことに専念することだ、と述べています。ある意味、当たり前のことですが、教育の専門家としてプライドを持ち、さらに社会の急減な変化のなかで多様化する子どもや保護者との問題を抱える教員にとっては、「まずは(ただ「聞く」のではなく、身を入れてよく)聴く」というのが実は一番難しい、ということなのでしょうか。

実際、手引書のマニュアル部分を見ると、「電話が鳴ったら、近くの人がすぐ出る」「明るく自分を名乗る」といった電話対応のポイントから、保護者や地域住民が直接来る時には「出来る限り玄関等まで出迎える」「会議室等の落ち着く部屋へ案内する」「来校のねぎらいを忘れずに行う」など、民間企業などではごく当たり前である事柄が並んでいます。「保護者等と接する心得10か条」として掲げられている「相手をねぎらう」「(嫌な気持にさせたなど)心理的事実には心から謝罪する」「相手の立場に立ってよく聴く」「言い逃れをしない」なども、いわば一般社会の常識でしょう。

このように手引書は、決して「モンスターペアレント対策」などではなく、対応する学校や教員の側の意識改革を求めたもの、と言えます。
ただ、人の話を「聴く」ことや、クレームの裏にある本音を察することは、気持ちの余裕や体力がないと、難しいものです。学校・教員と保護者・一般社会の間の意識がずれつつあることも確かですが、子どもや保護者と十分に対応できる時間を、教員が持つことも大切です。意識改革と同時に、教員の多忙化解消を図る施策も不可欠でしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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