正方形を制するものは二次方程式を制する[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。「NHKデジタル教材」という番組とWebを組み合わせた教材作りや、全国のとびきりの授業を伝える番組を制作するためです。そのなかで、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。


今回紹介する授業は、中学3年生の数学の授業で、二次方程式についてです。
この二次方程式は、中学校で習う数学のさまざまな内容が含まれているものです。どんな風に解くのか覚えていますか? 苦手と思っている人も多いと思います。
でも三重県のm先生の二次方程式の授業は、「なんてわかりやすくて、楽しいんだ!」と納得の連続でした。
m先生の理想は、毎時間毎時間、「勉強して、本来の意味で賢くなれた」「勉強をして、する前の自分より成長できた」と実感できること、そして、何よりも「楽しく勉強できた」と子どもたちが思ってくれることだそうです。

さて、どんな授業かというと、
「正方形を制するものは、二次方程式を制する」
という言葉で表せます。

二次方程式とは、たとえばax2+bx+c=0のように、xの2乗を含む式で、xが何かを求めるものです。
生徒たちは、x2=aとなれば、xを求めることができるという段階まで到達しています。つまり、x2=3ならxは2乗すると3になる数。言葉を換えれば、面積が3の正方形の1辺を求めることを理解しています。
x2=3ならば、その答えは、x=±√3です。

さて、授業は、中世のアラビアの数学者で代数を発達させた、アル=フワーリズミーから挑戦状が届いたという設定で始まりました。
挑戦状の内容は次の通りです。
「ある数の2乗とその数の10倍との和が39に等しい。ある数はいくらか?」
これは、土地の分割のために考えた問題と言われています。式にすると、x2+10x=39 です。ただ、当時は、式がなかったので、先生は、「図を使って考えるように」という指示を出しました。そして、手作りの3種類の教材を配ります。
・面積がx2のタイルを1枚
・面積がxのタイルを10枚
・面積が1の正方形のタイルを25枚




1枚


10枚


25枚

中学生たちのほとんどが、まずx2とxのタイルだけを使いました。すると、どうしても下記のような形になります。



  や、



など。
つまり、長方形にしかならないのです。
みんなは、正方形を作ろうとしていました。既に習っていたx2=aという正方形の1辺を求める手法を思い出したのです。習ったことを活かすことは、「考える力」をつける第一歩です。
しばらくすると、x2とxのタイルだけでは、解決の糸口が見えてこないことに気付き、面積が1のタイルを使い始める生徒が出てきました。
たとえば、こんな形です。



1を使って正方形を作っても、xを10枚使うのはなかなか難しいことでした。でも、みんなで考えていくうちにあるアイデアが生まれました。



x2+10x=39 ということからすると、上の図>39です。
上の図は、x2+10x+25です。
そこで、x2+10x+25=39+25=64という式にすることができます。
次に、上の図の正方形の1辺を見てください。x+5です。
x2+10x+25=(x+5)2となります。
つまり、(x+5)2=64となります。
ここまでくると、正方形の辺の長さを求める要領でxを出すことができます。
(x+5)2=64
(x+5)=±√64
(x+5)=±8

(1)
 x+5=+8
   x=8-5
   x=3

(2)
 x+5=-8
   x=-8-5
   x=-13

つまり、Xは、3または、-13となります。

実は、この方法を使うと中学校で習う二次方程式は、すべて解くことができるそうです。
最後に、m先生の言葉を二つ。
「意味なく暗記したモノは、すぐに忘れる。でも、体を使い五感を使って学んだモノは、忘れない」
「数学の勉強は、試験や成績などのためにしかたなくやるものではなく、数学という人類のかけがえのない共通財産に参加することだ」
ちょっと、「数学やってみようかな」と思ったのはわたしだけでしょうか?


プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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