苦手意識を克服! 自分らしい表現の芽を育てる図工の授業[こんな先生に教えてほしい]

毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ています。そして、先生方から授業への想いを聞いています。
小学生から高校生、そして、先生や保護者のかたに役立つ教育番組を制作するためです。その中で、「こんな先生に教えてほしい」と思った先生方のことを書かせていただきます。



今回、紹介するのは、新潟県のAH先生の図工の授業です。AH先生は、主に図工を教えています。教えるのは小学2年生。この授業が「いいな」と思ったのは、「絵をどう描いてよいかわからない」「自分の絵に納得できない」など、絵を描くのに苦手意識を持っている子が、自信を持てるようになった瞬間が見えたからです。
印象的なのは、子どもたちが、授業が終わったあと、自分が描いた絵を、笑顔でじっと見つめていた姿です。
AH先生の目標は、自分らしい表現を身に付け、感じたことをいきいきと描けるようになることです。それは、子どもたちは、お人形みたいな絵では納得しないからだそうです。

取材した授業は、人の顔がテーマです。モデルは、担任の先生です。まずは、担任の先生が、画用紙を丸く切り抜いたところから顔を出します。「画用紙に顔を描く!」ことを意識させるためです。
でも、すぐに描き出すことはしません。「1本だけ、クレヨンを出して、線を描いてごらん」という指示が出ます。ただし、「ゆっくり、しっかり描くように!」と注文がつきます。そして、先生が、スタートと言ってからストップと言うまで描き続けることがルールです。
これは、「気持ちのこもった線」を意識するきっかけ作りです。ただ、「ゆっくり」と「しっかり」と描くためには、力の入れ方が大切になります。そのために、先生は、子どもたちのそばに立ち、一人ひとりに手を添えながら、力の入れ方に、いろいろあることを気付かせていきます。

続いて、画用紙の中心を指して、「鼻を描こう!」と言います。でも、やはり、すぐには描き出しません。今度も画用紙に小さな穴を開け、そこからモデルの先生に鼻だけを出してもらいます。鼻に注目して……穴が2つ、下が膨らんでいるなどのその形を改めて意識させます。さらに、自分の鼻を触って、感じたことを言葉にするよう促します。子どもたちは、下のほうは、「ふにゃふにゃ」「くにゅくにゅ」そして、上に行くと「ゴツゴツ」など思い思いの言葉にしていきます。そして、その言葉をつぶやきながら線を描いていきます。
同じように、口・目・輪郭・髪の毛の順で、触って感じたことを言葉にしながら、「ゆっくり」と……「しっかり」力を入れて線で描いていきます。特に目は、モデルの先生に目を動かしてもらい、いろいろな表情があることを再認識する機会を作りました。
そして、色付けでは、あえて使ってよい色を6色(黄色・茶色・オレンジ・水色・肌色・紫)に限定します。これは、色の混ぜ方や塗り方を自然に工夫するためです。
肌の色を決める時も、モデルの先生を観察します。そして、クレヨンを折って小さくして横に使う方法や色の組み合わせ方、ティッシュでこすり、のばす方法などを教えます。

AH先生の授業を見て思ったのは、「子どもたちの可能性を信じているのだな」ということです。
「型」や「どうすればよいのか」を教えることは、「個性をつぶす」という意見もあります。でも、方法を教えてもらい、自分もやればできるという体験をした子どもたちは、その場に留まらず、次のステップに向かう。そう信じていると思いました。

絵を描くのが苦手だった私は、「自由に描いていいよ」と言われる前に、AH先生のように、こんな描き方があるよと教えてもらいたかったと切に思いました。

プロフィール


桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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