学力向上は生活リズムの改善から……文科省が全国70地域に調査委託

「早寝早起き朝ごはん」という言葉をご存じでしょうか。
「百ます計算」で知られる陰山英男先生(立命館大学 大学教育開発・支援センター教授/立命館小学校副校長兼任)らが子どもの生活リズムを改善するために提唱して有名になった言葉ですが、現在、文部科学省などが主導して国民的な運動にしようとしています。

昨年度にPTA団体や青少年団体からなる全国協議会が結成されたのに続いて、文科省はこのほど、子どもの生活リズムの改善に取り組んでいる全国70地域に委託して、生活リズムの改善が学力や体力の向上にどうつながっているのかの研究を開始しました。

テレビ、ゲーム、パソコンなどの普及により、子どもの生活リズムは、以前と比べると大きく変化しています。その代表的な例が、深夜まで起きているため、いつも朝寝坊で朝食を食べずに登校する、というパターンです。

時代とともに人々の生活習慣が変わるのは仕方がない面がありますが、教育関係者や医学関係者などの間で、最近の子どもが抱える問題の背景に生活リズムの変化があることが指摘されるようになってきました。

午前中は授業に集中できない、感受性に乏しい、ささいなことですぐに「キレる」、体力がなく忍耐力や学習意欲が続かない、などの多くは、寝不足と朝食抜きの生活が原因の一つだと言われています。

このため文科省が「早寝早起き朝ごはん」をキーワードにして、子どもの生活リズム改善のための全国運動に乗り出したのです。

特に注目されるのは、文科省が「早寝早起き朝ごはん」を「学力向上」の一環としても位置付けていることです。

文科省の小・中学校教育課程実施状況調査の結果によると、毎日きちんと朝食を取っている子どもとそうでない子どもの間では、朝食を食べている子どものほうが学力テストの成績が高いということも、統計的に明らかになっています。

ただ、「早寝早起き朝ごはん」の言葉が保護者の間に広がるにつれて、その問題点を指摘する教育関係者もいます。代表的な例は、朝食を食べさせるだけで成績が上がると信じるような保護者の出現です。

また、子どもにだけ早寝早起きを強制して、自分は夜更かし朝寝坊の生活をしている保護者もいます。「早寝早起き」ができるということは、自らの生活をコントロールする力があるということです。それが結果的に学力などの向上につながるのです。

朝食を食べただけで学力が上がるということも、おそらくないでしょう。「朝ごはん」とは単なる朝食ではなく、できるだけきちんとした朝食を子どもにつくり、家族で一緒に食べようとする保護者の努力の象徴なのです。子どもの生活リズムの問題で本当に問われているのは、子どもの生活ではなく、じつは保護者自身の生活の在り方なのではないでしょうか。

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

子育て・教育Q&A