『スマホ脳』ハンセン先生に聞く。子どもとデジタルデバイスの付き合い方、どうしたらいい?

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「宿題をしながらスマホで動画視聴」
「オンラインゲームのアクセス時間が長過ぎる」

子どものスクリーンタイムは、今や世界中の問題。パソコンやタブレットは学習に使うこともあり「制限しきれない」と困惑する保護者の声が多く聞かれます。スマホはうつや学力低下を招くと警鐘を鳴らしたベストセラー『スマホ脳』の著者、精神科医のアンデシュ・ハンセン先生に原因と対策を聞きました。

この記事のポイント

子どもも大人もスマホに夢中になる理由

「気が散る原因になるのでは」と気になりつつ、私たちがスマホを手放せないのはなぜでしょう。その理由には必要な連絡手段ということだけでなく、脳の仕組みも関係しています。

「脳には《ごほうび》をくれるシステムがあり、そのうちの一つがドーパミンのはたらきです。おいしいものを食べたり友達と会ったりして自分にとって良いことをすると、ドーパミンの量が増えて幸せな気持ちになります。脳が《ごほうび》をくれるのです。

元々人間が生き延びるためのシステムですが、今ではSNSに「いいね!」がつくことでも小さなドーパミンのごほうびがもらえてしまいます。それで私たちはスマホに夢中になってしまうのです。

スマホなどデジタルデバイスのごほうびは大量で強力。とても優秀な人たちが、私たちがどんなごほうびに弱いかを研究し尽くしたうえでスマホやアプリのシステムを作っています。そして、ドーパミンのはたらきができたころには今ほど強力なごほうびはありませんでした」とハンセン先生。

スマホがあるだけで集中が妨げられる?

実際、ついスマホに触ってしまうことで勉強や作業の効率を下げた経験がある人は多いのではないでしょうか。

「集中力と記憶力についてのある研究では、グループの半分がスマホを持ち、半分はスマホを持たずにテストを受けました。テストの成績は、スマホを持っていた人たちのほうが低い結果に。スマホをいじることなく、スマホを近くに持っていただけなのにです。その結果からわかるのは、スマホがあるだけで集中力をそぐ可能性があるということ。重要な勉強やミーティングの際にはスマホを近くに置かないことをおすすめします」

そして、子どもの脳は発達途中で、ごほうびに特に弱い状態にあるそう。

「パソコンのゲームからも非常にたくさんのごほうびが出ます。私たち大人はあまり考えず子どもに『計画的に使えるよね?』とデジタルデバイスを渡してしまいますが、子どもたちが自力でごほうびシステムに抵抗するのはとても難しいことなのです

じゃまなものを避ける集中力は、運動で上げられる

スマホによって私たちの集中力は失われてしまいます。そもそも、集中力とはどんなものでしょう。

「集中とは、そのことだけを考えている状態です。私たちの周りでは常にさまざまな音がしたりスマホの通知が表示されたり、気を散らせることが起きています。集中力があると、集中する必要のないじゃまなものを無視することが上手になります。そして、体を動かすとドーパミンのレベルが正しく設定され、注意を集中すべきものに向けることができます。運動をすると集中力が上がるのです。

アメリカで3,000人以上の子どもや若者を対象に調査した研究では、集中力が必要なテストで最も成績が良かったのは、運動をしている子どもや若者でした。最も悪かったのは座っている時間が長い子、さらにテレビを1日3時間以上見ている子たちでした」

ADHD、ゲーム依存の子どもたちにも運動は効果的

散歩をするだけでも集中力が上がる。そして特に集中に問題があるADHD(注意欠如・多動性障害)の子どもたちに対しても運動は効果的なのだそう。

「ADHDの人は集中するのが苦手ですが、その傾向は多かれ少なかれ誰にでもあるもの。はっきりした線引きがあるわけではありません。ADHDと診断された子どもたちには、運動によって集中力を上げる効果が特に大きいことがわかっています。もちろん、ADHDではないけれど集中力に問題がある子どもにも効果があります」

また、ゲームを長時間やり続けてしまう子どもたちにも運動は効果的です。

「ゲームが大好きな子どもたちに運動をしてもらうのは難しい問題ですが、運動をすることでゲームスキルが上がることは一つのモチベーションになるのではないでしょうか」とハンセン先生。

「デジタルデバイスはとてもパワフルに脳のシステムをハッキングしてくるもので、特に子どもは影響を受けやすいです。大人も子どもも、デジタルデバイスに対する自分のルールをしっかり持つことが大事だと思います。

デジタルデバイスにはメリットも多く、昔の生活に戻れと言いたいわけではありません。親子で読めるように書いた『最強脳』には、現代のテクノロジーに利用されるのではなく、うまくテクノロジーを使っていこうというメッセージを込めています」

まとめ & 実践 TIPS

便利で手放せないけれど、デメリットも気になるデジタルデバイス。魅力を感じる脳の仕組みを知ると、子どもたちが意志の力で管理するのは難しいことがわかります。運動で脳を変えつつ、スマホなどデジタルデバイスを使うルールを親子で見直すことも必要かもしれません。

通訳/久山葉子 イラスト・執筆/樋口かおる


第1回:成績が上がってゲームも上手になる方法。『スマホ脳』のハンセン先生が日本の子どもたちにアドバイス

第2回:テスト前日、時間がない! 『最強脳』精神科医に聞いた勉強の集中力をあげる簡単な方法

『最強脳—「スマホ脳」ハンセン先生の特別授業—』(アンデシュ・ハンセン著、久山葉子訳/新潮社刊)

世界的ベストセラー『スマホ脳』のハンセン先生が教える、脳をレベルアップする簡単な方法。幸せな気持ちになり、集中力・記憶力を上げるレシピを伝授

プロフィール

アンデシュ・ハンセン

アンデシュ・ハンセン

Anders Hansen。精神科医。ノーベル賞選定で知られる名門カロリンスカ医科大学を卒業後、ストックホルム商科大学にて経営学修士(MBA)を取得。2021年10月現在は王家が名誉院長を務めるストックホルムのソフィアヘメット病院に勤務しながら執筆活動を行う傍ら、有名テレビ番組でナビゲーターを務めるなど積極的にメディア活動も続ける。『一流の頭脳』が人口1000万人のスウェーデンで60万部が売れ、その後世界的ベストセラーに。前作『スマホ脳』は日本でも爆発的なヒットとなった。

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