1学期に「学校に行きたくない」と言っていた子どもの夏休み。実は大切なこの時期に、親が気を付けておきたいこととは【不登校との付き合い方(29)】

夏休みど真ん中。コロナ禍ではあるけれど、子どもたちはそれぞれの自由な時間を楽しんでいるでしょう。「学校に行きたくない」と言っていた子どもは、この自由な時間をどんな気持ちで過ごしているでしょうか。実は夏休みは、子どもがどんな思いで学校に通っているのか、ほんとうの気持ちを知るチャンスでもありそうです。「不登校新聞」編集長の石井志昂さんにお話を伺いました。

この記事のポイント

夏休みの時期によって変わっていく、不登校の子どもの気持ち

夏休みに入ったとき、もちろん多くの子どもがのびのびした気分になっているでしょう。これは不登校の子どもにとっても同じ。夏休みの前半は、多くの不登校の子どもはホッとして日々を過ごしています。それは、学校が休みだからみんなも登校していない、自分だけ取り残されているわけではないから、気持ちが落ち着くということなのです。

昼夜逆転している子どもの場合、夜はみんなが休んでいるからこそ、他の人の様子を想像しないで済む分、過ごしやすいと感じるようです。大人だったら、残業や休日出勤で仕事しているときの感じに似ているのではないでしょうか。仕事ばかり続いていやだと思う一方で、みんなが休んでいるから自分のペースで仕事が進められて、気が楽。夏休みの子どもも、これと同じような心境なんだと思います。

「自分は自分のペースでいいんだ」と思える時期が夏休み。みんなが休んでいるから、自分も心と体を休めていいと思うことで、かえって活動的になることもあるようです。登校日だけは学校に行ってみようとか、塾に通い始めたり、部活を始めたいと思う子もいます。

こんなふうに子どもの気持ちが切り替わり、生産的になったり、前向きになったりもします。だから夏休みは、学校に行きたくないという気持ちから、立て直していくチャンスなのかもしれません

「心の登校が続いている」状態だと、とても苦しくて疲れ果ててしまう

気持ちを立て直すときに大事なことは、ただ夏休みで周りも休んでいるというだけでなく、自分のペースで過ごしていると思えるかどうかです。遅れたものを取り戻そうとしたり、余計に頑張ろうとしたりすると、不思議なくらいあせりが出てしまい、かえってつらくなって動けなくなることがあります。

そうなると、夏休みなのに「登校しなくちゃ」とあせってしまうのです。私はこれを「心の登校が続いている人」と呼んでいます。学校には行っていないけれど心では登校しようとしている、さらにいえば心の登校ですらうまくできなくて疲れてしまうのです。周りから見れば、一歩も家から出ていないし何もしていないようなのに、どうして?と思われるかもしれませんが、子どもにしてみれば必死であがいた結果、疲れてますます動けなくなってしまうのです。

子どもが自分のペースで過ごすための環境はどうつくる?

心の登校が続いている子どもを、直接的にあせらせることはタブーです。子どものやる気がちょっと見えたようなとき、保護者はここぞとばかりに「少しくらい勉強したら?」とか、「いつまでも遊んでないで、なんとかしなさい」と言いたくなるとは思います。でも、学校に行っていない子どもは、本人がいちばん「やらなくちゃいけないこと」がわかっているし、あせっているときに指摘されるとますますうまくいかなくなるものです。自分のペースでいいよ、ということを言葉でも伝えてあげてほしいです。

手を引くよりも背中を押して、本人が進みたい方向へ進ませる

子どもが大人から言われて困るのが「そんなことをしていると将来困るぞ」という言葉です。大人側からすると「将来働く姿」というゴールが見えているからこその言葉でもありますが、子どもには「将来働く」というゴールが見えません。「そんなことをしていると将来困るぞ」という言葉で、その子の将来は人質にとられたようなことになってしまうのです。

子どもにとっては、自分が働くなんて想像もつかないずっと先のこと。それを今言われても、何から手をつけたらいいかわからなくて、ますますあせるばかりです。保護者が言わなくても、お盆休みに会う祖父母や親せきが言ってくる場合もあります。そういうプレッシャーから、どうか子どもを守ってあげてほしいです。不登校の子どもはもちろん、普段学校に行っている子どもでも。

よく言われることですが、子どもが進む道は、「手を引くより背中を押して」が基本です。本人が向かいたい方向があって、そこに向かって子どもは進んでいるのですが、大人は「もっと効率的な勉強法があるよ」とか、「こうしたほうが絶対いいよ」とつい言ってしまいがち。子ども本人にしてみれば、自分なりのペースで歩いているのです。その子の意思を尊重するように、向きたい方向へ向かっている背中を見守りつつ、そっとあと押ししようと意識することが大事でしょう。だから「将来困る」という言葉をかけながら、手を引っぱって連れて行こうとすることは、子どもにとって「自分のペース」ではなくなることなのです。

以前、俳優のゆうたろうさんを取材したときの印象的な話があります。彼は中学生時代不登校でしたが、古着がとても好きで、SNSで自分の好きなファッションをフォローしたりいいねしたりを楽しんでいました。でも、親御さんはそれが不安で、携帯電話を取り上げて学校行ったら戻してあげる、と言ったこともあるそうです。でも、あるときから、「あなたはあなたのままでいい、好きにしなさい」とお母さんからいわれて、それがとてもうれしかった、と話していました。

ゆうたろうさんはその後、高校は行かずに働き、働いて得たお金をすべて古着につぎ込みました。バイト生活を半年して、憧れだったアパレル店員になり「可愛すぎる少年」として見出されて芸能界デビューした、というわけです。

大人は将来が心配だからといって携帯を取り上げたりするけれど、「あなたはあなたのままでいい、好きにしなさい」と背中を押してあげると、子どもはまだ言葉になっていない夢や希望に向かって歩んでいくものなんだと、ゆうたろうさんの話を聞いた時にあらためて思いました。

ただ、それはゆうたろうさんが今、モデルとして俳優として活躍しているから納得できるエピソードでもあります。当時、お母さんは相当不安だったでしょうし、「好きにしていい」と言うこと自体、とても勇気がいったと思います。日常の中で出た言葉というよりも、非常事態になって初めて言えたことかもしれません。それでもこれこそが、その人の行きたい方向へ、背中を押してあげた言葉なのでしょう。

子どもが「学校に行きたくない」と言ったときにはどうするか

これは今月出版した『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社刊)という本でも書きましたが、子どもの「学校に行きたくない」という言葉がどこまでの思いなのかを判断することは難しいものです。昨年コロナ禍で不登校が始まった子どもの一例ですが、その子はふだん、「学校に行きたくない」とふざけた感じで言っていました。ただ、「どうして行きたくないの?」と保護者がよくよく聞いてみたところ、その子はだんだんに、つらかった思いを話し始めたそうです。実は毎回のテストがプレッシャーだった、と。コロナ休校中に勉強ができなくなってしまって、成績もがくんと落ちて、その結果を親に見せることもできなくなって苦しかったと、思いが噴き出して泣き出してしまいました。

そんな気持ちになるくらいなら、学校は休んだほうがいいのでしょう。みんなが学校に行かなくてもいい夏休みの間に、自分のペースを取り戻せるのなら、夏休みくらい好きなように過ごさせてあげてもいいのではないでしょうか。

まとめ & 実践 TIPS

不登校していたり、学校に行きたくないと思っていた子どもは、夏休みに入ってホッとしているはず。それは「自分のペースで過ごすことができるから」です。この夏休みが気持ちを立て直す時間になるのは、自分のペースを取り戻せるかどうかというところがポイントとなります。子どもは自分が向かいたい未来に自分の力で道を切り開こうとするときに、大人は前から手を引くのではなく後ろから背中を押すことが大切。子どものペースを守ってあげることが、保護者にとっての夏休みの宿題なのかもしれません。

『「学校に行きたくない」とこどもが言ったとき親ができること』石井志昂著/ポプラ社

ご自身も不登校を経験し、全国不登校新聞編集長として、20年以上不登校経験者を取材してきた石井志昂さんの著書が発売。親が気づきにくい、子どもの代表的なSOSや、保護者の心構えなどのノウハウ、「これ以上苦しむ親子を増やしたくない」という石井さんの想いが込められた1冊です。

プロフィール

石井志昂

石井志昂

『不登校新聞』編集長。1982年生まれ。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。17歳から不登校新聞社の子ども若者編集部として活動。不登校新聞のスタッフとして創刊号からかかわり、2006年に編集長に就任。現在までに不登校や引きこもりの当事者、親、識者など、400名以上の取材を行っている。

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