「勉強って何の役に立つの?」と、子どもに聞かれたら…池上彰さんと増田ユリヤさんの答えに納得した
YouTubeにゲームに話題のアニメ…。ネットのコンテンツが増え、とにかく時間が足りない今の子どもたち。
「ゲーム実況ばかり見てないで、勉強しなさい!」
「勉強なんて大嫌い!意味がないもん!」
こんな親子の言い争いがあちこちで繰り広げられています。
YouTubeチャンネル「池上彰と増田ユリヤのYouTube学園」を通してネットメディアとの付き合い方を再確認し、書籍『メディアをつくる!YouTubeをやって考えた炎上騒動とネット時代の伝え方』(ポプラ社)を発売した池上彰さん、増田ユリヤさん。「勉強は何のため?」「これからの社会を生きるため、子どもたちに必要な力は?」をお二人に伺いました。
YouTubeより面白いことを親子で探して
ネットコンテンツの利用にはルールが必要
—「子どもがYouTubeばっかり見て勉強しないので、イライラしてしまう」といった悩みを持つ保護者が、とても多いです。
池上彰さん(以下池上):YouTubeを見ていると、右側におすすめや関連動画が出てくるじゃないですか。ついクリックして、どんどんYouTubeサーフィンをしてしまう。本当に時間を忘れていることもあります。ものすごく魔力があるメディアです。
増田ユリヤさん(以下増田):ゲームばっかり、動画ばっかりになってしまうのであれば、きっとそこに達成感があるんですよね。「これよりも面白いものを見つけようよ」と親子で何か新しいことを探してみるのはどうでしょう。
ちょっとした小さいことでもいいと思うんです。お掃除をするときに、いかに科学的にやるかとか、何かを競争するとか。池上さんがパスポートにスタンプを押すのが大好きなように、スタンプカードをつくって全部集まったら特典みたいなゲーム要素があってもいいかもしれません。
池上:ルールづくりになりますね。ミッションをクリアしたらYouTubeを30分見る権利をもらえるとか。
増田:子どもだけではなく親にも課題をつくって、公平にしたほうがいいですね。
—それは楽しそうです。教育系YouTuberも増えて、子どもたちが「YouTubeで勉強する」機会も出てきました。お二人はどう思われますか?
池上:いいことだと思いますけれど、やっぱり時間を限ることが必要。自制心をつけるという意味でも、時間を守ったほうがいいですね。
増田:YouTubeを見ることには、「わかった気になれる」魅力があるのかもしれません。私の場合、わかった気になるのが苦手なんです。見ているとわかった気になるけれど、自分で考えて答えを出していったほうが、自分の身になる。YouTubeを見るだけだと、受動的な経験になってしまうかも?と気になります。
勉強することは命を守る。考え方が身につけられる
基礎的な学びが、次の知識の素に
—そもそも、子どもに「勉強なんて意味がない」と言われてしまうことがあります。「勉強したほうがいい」理由、どうしたら伝えられますか?
池上:中学生のとき「なんでこんなに勉強をしなくてはいけないのか」と母親に聞いて、「大人になればわかるわよ」と言われたことがあります。当時は答えになっていないと思ったけれど、大人になるとわかるんですよね。
たとえば、勉強してウイルスと細菌のちがいを知っていれば「新型コロナはウイルスなんだ」とわかります。ウイルスや細菌を理解するためには、その前の基礎的なことを勉強していかなければいけません。勉強していれば、石鹸で手洗いをすること、アルコールで消毒することの意味がわかります。勉強をしていくことが、あなたの命を守ることにつながるわけです。
—なるほど。死なないため、命を守るためにも勉強が役に立つということですね。
池上:そうです。高校の生物の教科書を買ってみたら、我々の頃と全然ちがうんです。昔はメンデルの法則くらいだったところが、DNAやRNA、mRNAなどワクチンがどんな手法でつくられるのかの理解ができます。それも、小学校や中学校で勉強した知識があって初めて理解できることなのかなと思いました。
増田:ゲームが好きなお子さんも多いと思いますが、「どうやったら敵を効率よく倒せるかな?」と考える元になっているのは、算数の考え方なんです。何か問題が起きたとき、解決するための考え方は、算数や数学を勉強することによって身につきます。論理的にものごとを考える力ですね。勉強とはそういうものです。
「勉強は何の役に立つ?」学校ではなかなか説明してくれないこと
・算数は問題解決力につながる
—「こんな方程式、実生活では使わない」と言われることもありますが、そのままではなくても役に立っているということですね。
池上:たとえば、中学校のときに因数分解を習うでしょう?
因数分解では、方程式の中で共通しているものを見つけ出し、それを外に出して、それ以外のものを括弧でくくります。そういう頭の体操、トレーニングをやっていたからこそ、物事を解説するときに、伝えることの共通点を探し出して「実はこういう話があります」と順序だてて解説していくことができる。実はこれは、因数分解の発想そのものなんです。
因数分解を習っていたときは学ぶ意味がわからなかったんですけれど、今になるとわかります。
—そういった話は、なかなか授業では聞けないかもしれないです。知識を応用できるものにするにはどうしたらいでしょうか。
池上:「先生が教えてくれたらよかったのに」と思うことはありますね。
新しい知識やニュースに触れたとき「そうなんだ」だけで終わらないで、「どうしてなんだろう?」とちょっと疑問を投げかけておくといいです。いろんなところに疑問や好奇心を持つということは大事です。
親が管理しすぎない。子どもの「好き」「表現力」を伸ばすには
これからの子どもたちに身に付けてほしい力とは
—子どもたちには学びへの意欲を持ち、成長していってほしいと思います。そのために保護者はどんなことに気を付けたらいいでしょうか?
増田:大人があまり管理しすぎないことがポイントな気がします。お子さん自身が好きなことを見つけられるといいですね。好きなことが見つかると、それについて知りたくなって、その道をズンズン進んでいくということがあるので。親が先回りをして考える、準備するといったことはしないのが一番だと思います。
池上:もちろん危険なことや法律に違反するようなことは止めて、そうでない限りはなるべく自由にさせることですね。それぞれの分野の一流の人は、子どもの頃、親が自由にさせてくれていた人が多いんです。無我夢中になってやっていることに対して、親から「やめろ」と言われなかったという話はよく聞きます。
—今の子どもたちは、「自分の考えを自分の言葉で表現する」ことが大切と言われています。お二人はYouTubeをやっていて、実感したことはありますか?
池上:「YouTube学園」をはじめて、自分の意見を言うことがこれまで意外と少なかったことに気づきました。
発信するためには自分の意見を持っていることが必要で、また、発信することによって考えを整理することができます。YouTubeでなくてもいいのですが、自分の意見を表現することは、その貴重な機会になりますね。
増田:自分の思いが一番大事ではありますが、発表すると、相手に伝わるかどうかも気になりますよね。「見た人に楽しい気持ちになってもらいたい」「理解してほしい」など、目的と成果を客観的に意識できるようになると思います。それが今後、良いものをつくることにつながるのではないでしょうか。
まとめ & 実践 TIPS
実生活では使わないと思っていた数学の公式も、考え方の素になっている。YouTubeを見ることも日々の勉強も、ルールを決めて主体的に望むことが大事です。先回りし過ぎず、子どもの成長を見守りたいものですね。
編集/磯本美穂 執筆/樋口かおる
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公式 池上彰と増田ユリヤのYouTube学園
https://www.youtube.com/channel/UC5X3kJorIx55tOJQ9283tkg