HSCとは?ひといちばい敏感でとても共感性の高い子どものサポートはどうする?
HSP、HSCという言葉をご存じでしょうか。「些細なことが気になって傷つきやすい」とう一方で、「感性豊かで芸術的で気持ちがやさしい」という特性を持つ人たちのことです。実は、5人に1人がこの気質の持ち主だといわれています。HSCとはいったい何か、HSCの子どもはどんなことで困っているのか……。児童精神科医の長沼睦雄先生に教えてもらいました。
HSCとは?
HSP(Highly Sensitive Person)というのは、1996年にアメリカの心理学者、エレイン・N・アーロン博士が発表した概念で、生まれつきとても敏感な感覚や感受性を持った人たちのことをいいます。HSC(Highly Sensitive Child)は、その子ども版です。
HSCの4つの特徴とは?
具体的に、HSCにはどのような特性があるのでしょうか。アーロン博士は次のように特徴を挙げています。
1)深く処理する
2)過剰に刺激を受けやすい
3)全体的に感情の反応が強く、特に共感力が高い
4)ささいな刺激を察知する
1)深く処理する
「深く処理する」とは、感覚的な情報を深く受け取り考えるということです。物事の本質を突くような鋭い質問をしたり、大人びたことを言ったりします。また、じっくり考えているため、行動を起こすのに時間がかかることも。そのため、周りの人から見ると臆病や引っ込み思案のように見えることがあります。
2)過剰に刺激を受けやすい
他の人なら気にならない感覚刺激も無意識にキャッチします。つまり、肉体的にも精神的にも負荷がかかりやすく、疲れやすいということです。そのため、遊びに誘ってもすぐにぐったりしてしまうことがあります。
3)全体的に感情の反応が強く、特に共感力が高い
よく泣いたり、びっくりしやすかったり、怖がったり、かんしゃくを起こしがちだったり……。このように、感情の振り幅が大きいという特性もあります。こうした敏感さは自分だけでなく他者にも発揮されるため、お友達が怒られているにもかかわらず泣き出してしまうようなことがあります。これは、他者の悲しみや不安などの感情を強く受け取り、反応しているからです。
4)ささいな刺激を察知する
小さな物音やかすかなにおい、人やもののエネルギーなど、他の人なら気づかないようなちょっとした変化によく気づくという特性もあります。通常なら「たいしたことではない」と見過ごされることが、気になってしかたがないのです。
HSCセルフチェックリスト
アーロン博士によるチェックリストの中から、いくつか抜粋したものを紹介します。子育てをしていてよく直面する場面に絞ってみましたので、お子さまの様子と照らし合わせてみてください。
- □服のタグや縫い目、肌触りなど、身に着けるものの不快さを訴える。
- □サプライズプレゼントなどをしても、おおむね喜ばない。
- □年齢にしては難しく複雑な言葉を用いる。
- □微妙に異なる匂いに気がつく。
- □服が濡れたり汚れたりすると、すぐに着替えたがる。
- □痛みに対してものすごく敏感。
- □うるさい場所が苦手。
- □何かを動かしたとか、人の見た目の変化など、ささいなことに気がつく。
- □高いところに登る前に安全かどうかよく確かめる。
こちらはチェックリストのほんの一部です。この項目に当てはまることが多い場合は、以下の記事にあるフルサイズのチェックリストを進めてみてください。
人一倍敏感で傷つきやすい「敏感っ子(HSC)」をどう育てる? 5人の敏感っ子を育てたママに聞いた3つのポイント
https://benesse.jp/kosodate/202102/20210206-1.html
HSCの長所を伸ばし、自己肯定感を高めることが大切
HSCは生まれ持った神経の性質(気質)であり、生まれた後から作られる性格ではありません。ただ、生活を送る中で、他の子どもには簡単にできることが自分にはなかなかできないということも多いです。その気質の特徴から、うまくできなかったことに対して深刻に受け止めすぎて、自分を責めたりすることもあります。生きづらさを軽減してあげるためには、特性を理解し、その気質をプラスの考えに変化させられるような周囲の働きかけが必要です。
体調や気持ちを代弁するような声掛け
敏感な気質を持った子どもは、刺激を受けることに関して鋭い感覚を持っています。しかしその一方で、それを表現することには難しさを持っていることも。そのため、調子が悪そうにしているときに「どうしたの?」と聞いても、うまく答えられないことが多いのです。
ですからそんなときには、保護者のかたが「お腹が痛いの?」「疲れたのかな?」「ムカムカするのかな?」など、体調や気持ちを代弁するような声をかけてあげるようにしましょう。そうすることで、自分の主観的な状態をごまかさずに出せて、受け止めてもらえることができます。それがお子さまの自己肯定感を高めることにつながり、「自分はダメな人間じゃないんだ」と思えるようになるでしょう。
「今は無理をしなくてもいい」と受け止める勇気
その敏感さゆえに集団生活では困難なことが多く、「学校に行きたくない」と訴えることもあるかもしれません。その場合保護者のかたは、「今は無理をしなくてもいい」と受け止める勇気を持ってほしいと思います。一度行かなくなったら二度と行けなくなるのではないかと心配する親心もあるでしょう。しかし、無理をしすぎて心が折れてしまったら、もっとツラくなってしまいます。そうなる前に早めに休んで、元気になるのを待つという選択肢を持ってほしいのです。
また、本人に「行きたくない」と言われなくても、既に体に不調が現れている場合もあります。体は何よりも正直です。頭痛やめまい、腹痛や吐き気などの自律神経失調症状がある場合は、もう限界がきている証拠。その場合は親の判断で学校をお休みし、体調の回復を優先してください。
具体的なサポートについては、以下の記事も参考にしてみてください。
我が子が敏感気質を持ったHSCだったら。気質を活かした育て方とは?
https://benesse.jp/kosodate/202001/20200115-1.html
医学概念ではないHSC、悩んでいる保護者のかたは専門の心理士に相談を
「我が子がHSCかもしれない」と思ったら、どうすればよいでしょうか? まず大切なのは、HSCについての知識を得るということです。本を読んだり、同じような子どもを持つ保護者のかたや専門家に話を聞いたりしてみてください。そして「自分の子どもと似たような敏感な感覚を持っている子がほかにもいるんだ」ということを知ってほしいと思います。
HSCは医学概念ではないため、医師は知らないことが多く、診断するということができません。そこで重要になってくるのが、HSCについてよく理解している心理士の存在。誰に相談してよいかわからないという保護者のかたは、まずは専門の心理士に相談してみるのも一案です。
まとめ & 実践 TIPS
敏感さの現れ方は、環境によって大きく影響されます。同じHSCという気質であっても、周囲の理解や対応によって、お子さま自身の気持ちは変わってくるということです。保護者のかたや学校の先生がたの関わり方、そして環境によって、HSCの子どももしっかりと自己肯定感を育みながら成長していくことができます。HSCは、決してマイナスの特性ではありません。今回の記事が、「我が子がHSCかもしれない」と感じているかたの子育てのヒントになれば幸いです。