幼稚園・保育園のときに大切なこととは? [教えて!親野先生]
教育評論家の親野智可等先生が、保護者からの質問にお答えします。
【質問】
幼稚園・保育園のときにやっておくとよいのはどんなことでしょうか?ママ友の中には、小学校入学後の国語や算数の準備のためにかなり多くの教材をやらせている人もいます。これで勉強はできるようになると思いますが、その人を見ているとちょっと偏りすぎというか、もっと別なこと、例えば遊びなども大事なのではと思ったりもします。
相談者・ゆめりん さん (年少 女子)
【親野先生のアドバイス】
ゆめりんさん、拝読しました。
おっしゃる通り、偏りすぎはよくないですね。
知育という言葉が流行り出した頃から、文字の読み書き、計算、図形の認識、知識の習得などに偏りすぎる傾向があるようです。
もちろん、それらがムダということではありません。
子ども自身の興味やペースに応じて、無理のない形で、生活や遊びの中で楽しみながら進めていくことはとてもよいことです。
でも、知的な面だけでは不十分です。
私は、知性と同時にもっと子どもの感性を豊かに育むという方向性も必要だと思います。
小さいときからいわゆる勉強的なことばかりやらせられてきた子は、小学校入学後のスタートダッシュはすごいです。
そして、小・中学生くらいの段階では、教えられたことを覚えてテストで正解を書けば良い成績がもらえます。
でも、その後の段階になると、イマイチ後伸びしないということもよくあるのです。
大学、大学院、あるいは社会に出て仕事をする段階では、それだけでは不十分であり、どの分野においても感性と自己実現力が大切になってきます。
感性(感受性・感じる心)こそが、インスピレーション、閃き、アイデア、独創性、ユニークさ、工夫の土台であり、それが豊かであればあるほど大きく伸びていくことができます。
この大事な感性を育てるうえで非常に大切なのが体験です。
子どもたちには、いろいろな体験の中でたくさんの感動をして欲しいと思います。
鉄道博物館で電車運転の疑似体験をする。
科学館で宇宙服を着る。
特に、今の多くの子どもたちに欠けているのが自然体験です。
磯遊びでカニやヤドカリをつかまえる。
ぬるぬるの鰻をつかもうと悪戦苦闘する。
芋掘り体験をしたり、家庭菜園でオクラを育てたりする。
泥を固めて泥団子をつくる。
夏の田んぼの畦道で、むっとした草いきれのにおいを嗅ぐ。
蛍の光りの神秘的な輝きに驚く。
昆虫の羽の美しさに見とれる。
あたたかいネコを抱きしめる。
こういった感動体験の中で、子どもは「不思議だなあ。びっくりしたなあ。きれいだなあ。素敵だなあ。すごいなあ。面白いなあ。もっとやってみたい。もっと知りたい。かわいいなあ。かわいそうだなあ。大切にしたいなあ」といろいろなことを感じます。
まさにこのとき感性が育つのであり、それがインスピレーションの源になります。
仕事でも文学でも芸術でも、そのインスピレーションの源は感性なのです。
そればかりか、科学的な探究心や道徳性の発達という面においても、その源になるのは感性なのです。
そして、感性と同時に自己実現力を伸ばすことも大事です。
そのためには、遊びも含めて、子ども自身が本当にやりたがることを応援して、たっぷりやらせてあげる必要があります。
これによって、自分が楽しいと思ったこと、やりたいと思ったことをどんどんやっていく力、つまり自己実現力がつきます。
これがある人は、勉強でも仕事でもプライベートでも、自分がやりたいことを自分で見つけて自分でどんどん伸びていくことができます。
自分で決めたことだから、がんばることができます。
当然、やり抜く力、つまりグリットがつきます。
このグリットは最近非常に注目されています。
心理学者のアンジェラ・ダックワースは「社会的に成功するためにもっとも必要なのは才能やIQや学歴ではなく、グリット(やり抜く力)である」と言っています。
私もまったくその通りだと思います。
小さいときから自己実現力を育てることが後で大きく伸びる力になるのです。
さらに言えば、遊びなど、心から楽しいと思えることに夢中になっているとき、子どもの脳の性能がアップして頭がよくなるということもあります。
好きなことに夢中になって頭を使っているときに、脳がフル回転して、認識力、理解力、思考力、記憶力などが育つからです。
頭がよくなっていれば、いわゆる勉強をしたときも、内容がどんどん入っていきます。
以上のことをまとめます。
知性だけでなく感性を育むことが大事です。
そのためには、自然体験を含めていろいろな体験をさせてあげてください。
同時に、遊びも含めて、子ども本人がやりたがることを応援して、たっぷりやらせてあげてください。
私ができる範囲で、精いっぱい提案させていただきました。
少しでもご参考になれば幸いです。
皆さんに幸多かれとお祈り申し上げます。
(筆者:親野智可等)