新学期に不登校の子が「環境リセット」にかける思い。家庭で安心を与える寄り添い方とは

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不登校の子どもにとって、新学期やクラス替えといった環境の変化は、再スタートを期待するきっかけとなることがあります。このような「環境リセット」によって、新しい環境であれば「やり直せるのではないか」という希望を抱く一方で、期待と不安が入り混じり、その心には大きなプレッシャーがのしかかることも少なくありません。

子どもがそのプレッシャーに押しつぶされることなく、再スタートを願う気持ちを保護者が理解しながら、家庭内でどのように接し、見守るべきでしょうか。本記事では、「環境リセット」の時期における子どもの心情を理解し、具体的な接し方について解説します。

この記事のポイント

新学期は不登校の子どもが再スタートを期待するタイミング。新しい環境がもたらす期待と不安

新学期を迎える4月、不登校の子どもたちの心はいつも以上にざわざわとしています。友だちや先生との関係をきっかけに学校へ通わなくなった子や、クラスと波長が合わなかった子などが、新学期やクラス替えといった新しい環境であれば「やり直せるかもしれない」という期待を抱くことがあります。環境や人間関係をリセットし、仕切りなおすことで再登校してみようという気持ちになるかもしれないと考えるのです。

子どもが気持ちを奮い立たせて「学校に行ってみよう」とする気持ちは、もちろん家庭でも尊重して応援したいところ。実際に4月の新学期を機に再登校するようになるケースもあります。

たとえば、クラス替えによって合わない子や先生と離れられた場合や、反対に仲の良い子と同じクラスになれたなど、いずれも新しい環境によって人間関係にも不安要素が取り除かれた場合です。けれどこうしたケースは例外的とも言え、むしろこの時期にいつも以上に「なんとか変わりたい」という思いをかける不登校の子どもたちの切実さに、注意を払う必要があります。

「やり直したい」という期待と「失敗したらどうしよう」という不安が負担となっている

「また失敗したらどうしよう」、「新しいクラスでもなじめなかったらどうしよう」。新学期の変化に子どもたちは期待を寄せる一方で、とてつもない心理的負担を自らかけてもいるのです。期待と不安、この二つの感情が同時に存在していることを理解することで、保護者は子どもに寄り添いやすくなります。

文部科学省が発表した「不登校児童生徒の実態調査結果(令和3年)」(※1)によると、不登校の子どもたちが「学校を多く休んだことに対する感想」について回答した結果は以下の通りです。

「もっと登校すればよかったと思っている」と答えた割合は約3割(小学生25%、中学生30%)で、「登校しなかったことは自分にとってよかったと思う」と答えた割合は約1割(小学生13%、中学生10%)でした。また、「しかたがなかったと思う」と回答した割合は約2割(小学生17%、中学生15%)を占めており、不登校に対する子どもたちの心境が一様ではなく、複雑であることがうかがえます。

さらに、「もっと登校すればよかったと思っている」と回答した児童生徒に対して、「学校を休んでいる間の気持ち」を尋ねたところ、「ほっとした・楽な気持ちだった」と答えた割合は「あてはまる」(小学生24%、中学生26%)、「少しあてはまる」(小学生38%、中学生41%)という結果でした。

このことから、学校を休んでいても心から安息を得ているわけではないことがわかります。

こうした子どもが感じるプレッシャーは、家庭や周囲が言葉にはしなくても期待を感じて生じることもあります。「学校に通ってみんなと同じようにしなければならない」または「自分が親に心配をかけている」という思いが、子どもをさらに追い詰めていることもあるのです。保護者はこのプレッシャーを少しでもやわらげるために、子どものペースを尊重する姿勢を持つことがとても大切です。

「環境リセット」期、大切にしたい子どものペースと家庭でできる見守り方

「環境リセット」に思いをかけてまで、再登校を考える子どもの胸のうちを想像してみましょう。本来不登校になったきっかけが解決しているわけでもないのに、自分にプレッシャーをかけてまで学校へ行こうとするのはなぜか?「みんなと同じであること」を暗黙に追い求めてしまう、過剰適応の状態が考えられます。

興味深いことに、人が幸福を感じるにあたっては、所得や学歴以上に「自己決定」の度合いが強く影響するという調査結果(※2)があります。つまり、この時期に無理をして「みんなと同じ」である必要はないと言えます。

再登校はもちろん、中学卒業や進路、受験などはいずれもゴールではありません。大切なのは自分のやりたいこと、いわば “自分軸” を決めて自己決定することであり、家庭では過剰適応に陥り悩む子どもがリラックスして過ごせる環境づくりをしてみましょう。

もし子どもの再登校への希望が強いようであれば、いきなり学校に通うことを目標にするのではなく、まずは小さな成功体験を積み重ねることが効果的です。たとえば、「学校の近くまで行ってみる」「先生と短時間話してみる」といったステップを設けること。あくまでも子どものペースを尊重し、寄り添うことが大切です。

一方で、「環境リセット」で保護者が再登校に期待をする際も、「焦らない」「期待を押し付けない」という心構えを持ち、お互いに穏やかに過ごすことで子どもの安心にもつながります。

「家庭と学校」から視野を拡げ、サードプレイスの活用も

新年度は学校だけでなく、働く保護者にも環境の変化が訪れやすいとき。家庭内で抱え込み過ぎず、学級担任との連携はもちろん、自治体の教育相談センター(教育支援センター)や子ども家庭支援センターなども利用できます。詳しくはお住まいの自治体の公式ウェブサイトで検索できます。

また、家庭と学校以外にも、塾やフリースクールをはじめとするサードプレイス(第三の居場所)をつくることは、保護者や先生以外の大人との関わりを持つことにつながります。多様な価値観に触れる機会として期待ができ、子どもの世界を拡げることにも役立つでしょう。

プロフィール


上木原 孝伸

教育企業で講師として17年間教壇に立ち、教科指導や教室運営に携わった後、通信制高校の開校準備から参画、同校の副校長を4年間務める。その後、発達に特性があるお子さまとそのご家庭にマッチする環境のコンサルティングサービスの責任者を務めた後、ベネッセコーポレーションに入社。ベネッセ高等学院学院長に就任。

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