「失敗」を恐れない子どもになるには?[やる気を引き出すコーチング]

講演会の後で、保護者のかたから、案外とよくいただく質問があります。
「コーチングをしていて、これは失敗だったという体験があれば、教えていただけないでしょうか」というものです。
駆け出しだった頃には、それなりに答えていたと思いますが、いつの頃からか、この質問を受けても、ピンとこなくなりました。最近は、思ったまま、お答えします。
「失敗だと思っていることはないです。これは、決して、私がコーチとして完璧だという意味で言っているわけではありません。コーチングを通して、私の中で、『失敗』という概念がなくなってきたように思うのです」。

大人が勝手に「失敗」ととらえない

以前、受験生のお母さんから、こんな質問をされました。
「うちの子、受験に失敗してしまったのですが、こんな時は、どう声をかけたらよいのでしょうか」

これだけだと、事情がよくわからないので、私は質問しました。
「お子さんは、今、どんなご様子ですか?」
「子どもは、そんなに落ち込んでいるようには見えないんですけど」
「今は、どんなお気持ちなんでしょうね? 聴いてみられましたか?」
「『大丈夫』とは言っているんですけど」
「じゃあ、いいんじゃないでしょうか。見守っていたら」
「でも、受験に失敗したんですよ」
「あの、『失敗』と思っているのは誰なのでしょうか?」

親御さんのほうが、「問題」ととらえていて、お子さんのほうは、それほどでもないということはよくあります。大人が、「失敗」、「失敗」と反応するので、かえって、「意図通りにいかないことなどあってはならない」と、子どももチャレンジを避けるようになっているのではないでしょうか。

中学受験で志望校に合格できなかったお子さんのお母さんが、こうおっしゃっていました。
「不合格だった時は、私も子どもも落ち込みましたけど、子どもには今の中学校に行かせてよかったと思っています。仲の良い友達ができて、受験勉強をしていた時よりも、ずっとイキイキしています。『学校が楽しい!』と言って通っているので、今では、本当に良かったなと思うんです」

何が「成功」で、何が「失敗」なのかは、こちらが早計に決められるものではないのです。

「体験」と「学び」があるだけ

受験生とのコーチングで、大事な模試が終わった後などは、私は、この質問からコーチングを始めます。「今回はどうだった?」。点数や順位などの表面的な結果だけを聴いて、こちらが「良かった」、「悪かった」と判断をせず、あくまで、本人がどう感じているのかを聴きます。

「良かった」と答えれば、「それはすばらしい!」と承認しながら、「どこが良かった?」、「何がうまくいったと思う?」とうまくいった要因を質問します。

「良くなかった。失敗した」という返答なら、「そう思っているんだね」と受けとめ、「どこが失敗だと思ったの?」、「どうすればよかったと思う?」、「次はどうしたらいいかな?」と、“体験を次に生かすための質問”を一つひとつ丁寧にしていきます。そして、どんな結果でも、「次につながる良い経験だったね」と承認します。

日頃から、こんな対話をしていると、本人もあまり「失敗」とは思わなくなるようです。「ここが足りなかったので、次はこうしてみる!」と自分で考えて行動するようになっていきます。そんな姿を見ていると、「単なる成功と失敗があるわけではなく、体験と次につながる学びがあるだけなんだ!」と思わされます。

そういうわけで、コーチングを続けるにつれ、私の中でも、「失敗」という概念がなくなってしまったようです。大人が「失敗」として扱わなくなると、子どもも「失敗」を恐れず、次の行動を起こすようになっていくのでないでしょうか。「失敗しないこと」に意識を向けるよりも、日々の体験から学びや成長を見出すようにしてほしいと感じます。

(筆者:石川尚子)

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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