「失敗」を恐れない子どもを育むコミュニケーション[やる気を引き出すコーチング]

「コーチングをやっていてよかったと思うことはたくさんありますが、とりわけよかったと思うことがあります」と話すのは、高校2年生の娘さんをもつKさん。
「子どものことを心配しなくなりました。子どもが失敗したらどうしよう?と思わなくなったんです。子どものほうにも、『失敗』という概念がもうないようです」
 いったい、どういうことでしょうか?

■「失敗」を責める代わりに質問する

Kさんはこう言います。「以前は、子どもが困らないように、つい、先回りして『こうしたらいいよ』とか『それはやめておきなさい』とか口を出していました。それでも、子どもが小さいうちは、やりたいことにはチャレンジしていました。
でも、うまくできないと、『だから言ったでしょう!』、『どうしてそんなことをしたの?』と私が責める口調で言うので、小学校の高学年ぐらいからは、もうチャレンジしようとしなくなりました。『失敗したら、お母さんに叱られる』、『失敗はしてはいけないもの』と思うようになったのです」
 「そこからどうやって、『失敗』の概念すらなくなってしまったのですか?」。私は興味しんしんできいてみました。

 「コーチングですよ!コーチングを受けるようになって、まず、私の概念が変わったことは大きかったです。私が、コーチに『やってみます!』と言ったことがうまくいかなくても、コーチは、絶対に私を責めたりしないですよね。その代わり、いつも質問をしますよね。
『どこがうまくいかなかったと思うのですか?』、『本当はどうしたかったのですか?』、『次はどうすればいいと思いますか?』と淡々とききますよね。そうやって考えていくうちに、『別に、失敗ではなかったんだ! 次はこうしてみればいいんだ! これはすごくいい経験だったんだ!』と思えるようになってきたんです。子どもも一緒かもって思いました。
私が、子どもに失敗させないようにしたり失敗を責めたりすることで、子どもの学びの機会を奪い、失敗を恐れる子どもにしていたんだなって気がつきました。そこで、私も、子どもが失敗しても、叱らず、質問をするようにしました」。
 Kさんの自ら気づき、実践する姿勢にはいつも感動を覚えます。

■「失敗」ではなく「ミセイコウ」なだけ

「うちの子がこの前、おもしろいことを言っていたんですよ!」とKさんは嬉しそうに続けます。
「私が、習い事でやっている楽器の発表会に出るか出ないか迷っているという話をしたら、『やってみたらいい!』と娘が言うんです。『今はまだ、人前でうまく演奏する自信がない』と言うと、『そんなのやってみないとわからない。失敗はないから。うまくできなくても、初めての発表会なんだから、今回はミセイコウってだけでしょ』って。『何?そのミセイコウって?』ってきいたら、『まだ成功してないってこと。失敗はないんだよ。成功するまでやればいいんだから』って。
すごいこと言うようになったなぁと感心しましたよ。そんな気持ちで、この子もチャレンジしているんだなと思ったら、こちらもがんばらないとと思いました。だからもう、子どものことはまったく心配しないですね。うちの子が言うように、何が起きても、失敗なんてないんだから」

 このようなお話をきくと、日々、どんな言葉を投げかけるかによって、人の思考や行動は大きく変わるのだなと実感します。「どうしてそんなことをしたの?」ときくのか、「次はどうすればいいと思う?」ときくのかでは、その後の人生を大きく左右すると言っても過言ではないようです。失敗を恐れてチャレンジしない子どもになるのか、「失敗はない」という前提で、建設的に思考しながら、自分で可能性を広げられる子どもになるのか、すべては日頃の言葉かけしだいと感じます。

プロフィール


石川尚子

国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。著書『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。

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