感情を豊かに表現できる子どもを育てる方法
感情は人間が生きていくうえで切り離せないものです。子どもの感情を大切にしつつ、人間らしい感情表現をできるよう成長させていくにはどうしたらよいのでしょうか。法政大学教授の渡辺弥生先生にお話を聞きました。
知能の前提となる感情の育成が大切
日本ではこれまで、知能を伸ばすのに躍起になり、社会性や人間性の育成については二の次とされているような風潮がありました。しかし、近年、「知」の教育に偏重しがちで「情」に関わる側面が十分育っていないと、社会に適応できる人格がきちんと備わっていかないということが明らかになってきたのです。たしかに、いくら学力を付けようとしても、子どもが友達関係で悩み、不安定な状態になっていたら、教えたことはスムーズに浸透しません。感情をうまく表せなかったり、上手にコントロールできなかったりすれば、人間関係で孤独を感じたり、組織の中でうまくコミュニケーションがとれず苦労したりすることになります。
感情は人間が生きていくうえで、非常に重要なものなのです。
そのため、子どもが「泣く」「怒る」などネガティブな感情を出したとしても、頭ごなしに否定するのはやめましょう。感情は否定しても、消えることはありません。また、ネガティブな感情も生きて行くうえで大事な感情なのです。感情を受け止めて、その感情とどう向き合うかを教えていくことが大切なのです。具体的に、2つの方法が有効です。
【方法1】感情を論理的に裏付けてみる
「泣く」という感情表現に対して、「どうして泣いているの?」「何が悔しかったの?」「なんでそう感じたの?」「これからどうしたらよいかな?」などと、状態だけではなく、理由が考えられるように具体的にかみ砕き、本人が感情を説明できるようにしていく方法です。問題解決の力を養うことができます。
【方法2】感情をありのままに受け入れる
「怒り」などのネガティブな感情を抱いたとしても、否定せず、「そういうこともある」と受け止めていく方法です。その感情を持ったから自分を「ダメ」とは思わないようにする。すると、穏やかな心境を理解できるようになります。
いらない感情はないことを知ろう
基本的に、不要な感情などありません。人は、「悔しい」と感じる経験があったから努力ができたり、「悲しい」と感じたから他の人に優しくできるようになったりするのです。上記2つの方法をバランスよく取り入れることによって、子ども自身が感情を受け止めて、それを生かして成長していくことができます。
また、 小学校の高学年くらいになると、社会で認められるように、自分の感情表現をモニターしたり統制したりすることが、かなりできるようになります(ディスプレールール)。これは、たとえば、プレゼントを開けて本当は欲しくないものだったので「がっかり」したけれど、与えてくれた人の前では相手の気持ちを考えて「うれしそう」に表現するほうがよいことを学ぶということです。ただし、子どもはまだ感情をマネジメントすることができず、とまどうことが実際には少なくないでしょう。
ネガティブな感情を抱いた時や、ディスプレールールにうまく従うことができずにいる時に、頭ごなしに子どもの感情を否定すると、子どもは自己肯定感を持てなくなります。「こんなマイナスの感情を持ってしまう自分は悪い子だ」と自分を責めてしまうのです。
近年、日本において、子どもの自己肯定感が低いことが取り沙汰されていますが、自分の感情を受け止めたり、大切にしたりできていないことが原因の一端なのではないかと私は思っています。
「応答的環境」をつくることが感情表現を豊かにする
感情表現は、「応答的な環境」で育ちます。応答的な環境とは、感情を受け止めて反応をしてくれる環境のことです。つまり、泣いていたら「どうしたの?」と声を掛けてくれる。喜んでいたら、一緒にニコニコしてくれる。「○○だから、うれしいんだね」と気持ちに寄り添ってもらえる環境で過ごすことで、子どもは感情を豊かに持ち、表現方法も心得ていくのです。
一方で、「泣いても放っておかれる」といった環境で育った子どもは、「感情を表現しても無駄だ」という感覚に陥ったとしてもおかしくはありません。感情をうまく表現できなくなり、何を考えているかわからない、理解するのが難しい子どものレッテルを貼られてしまう可能性があります。すると、円滑な人間関係を結ぶことに苦労することも出てくるかもしれません。
子どもが抱くどんな感情表現も否定せず、どうしてそういう気持ちになるのか説明してやり、どう対応していけばよいのか具体的に教えてやりましょう。人間的な成長につなげていける環境をつくっていくことが大切なのです。